【大会に出よう!】


 さあ、おやつの時間だ。
 そう言って集まった面々に、バズーは紙を見せた。
「俺、これに出る!」
 そう高々に宣言して。


~1.カラフルポスター~


「ああ、なんか街にいっぱい貼ってあったわね。よく見てなかったけど」
 テーブルにおやつのクッキーを置いて、デイズは言った。さっそくクッキーに手をつけながら、カインがバズーから紙を受け取る。
「第57回、料理大会開催? へぇ、そんなんがあるのか」
「え、私初耳ですよ」
 デイズはカインの後ろから紙を見た。確かに、料理大会の文字が書かれている。
「ふうん、街の中心部だけの行事なのかしら」
 バズーはカップに紅茶を注ぎながら、得意げに言った。
「優勝商品が凄いんだ。高級レストランの特別招待券! 高級料理がただで食べられるんだぜ!」
「お、高級料理か。いいな」
「でしょでしょ! ばしっと優勝してゲットするんだ!」
「……あのさ」
 ふっと、沈んだ声が響いた。あまりのテンションの違いに、三人はきちんと席について、発言者を見やる。そこには憂いだ表情の女帝、ルシフェルがいた。今まで道端の石ころのように存在が希薄だった彼女に、やっとみんなの視線が集まる。どうしたんだ、そのテンションの低さは。
「第57回料理大会って、聞き間違いじゃ、ない、よね…?」
 目を伏せながらの質問に、紙を持ったままカインは答えた。
「そう書いてあるぜ。なんだよ、こんな面白そうなのあるんなら言えよな」
 テーブルに置かれた紙を見ながら、バズーとデイズも続く。
「そういえば、俺も紙貰うまで知らなかった」
「私も。ルーシーったら教えてくれてもいいじゃないの」
 デイズの言葉に、カインもバズーも頷く。
「…悪戯とかじゃない?」
「俺、ちゃんと広場に仮設テント立ててあるの見たよ。紙くれた人も料理大会って文字書いたジャンパー着てたし」
「お前、どうしたってんだよ。おかしいぞ」
 カインが眉をひそめた時、バシンッとテーブルは叩かれた。ルシフェルの口から、早口で言葉が紡がれる。
「私そんなの知らない。聞いたことなければ見たこともない」
「は? だってお前じょて――」
「女帝だけど知らないもん!」
 キッとカインを睨み付けたルシフェルの瞳は、涙で潤んでいた。なんだいきなり。カインは突然のことに動けなかった。双子も目を見開いている。ルシフェルの言葉は続いた。
「大会のたの字も全然まったく聞いたことない。女帝なのになんで? 第57回? なにそれ。まさか、今の今まで私一人のけ者に――」
「…ルーシー、落ち着いて」
 震える声を遮ったのはデイズだった。室内には嫌な緊張感が漂っている。だがその中で、デイズはゆっくり口を開いた。
「『大会』って言っても、誇大告知の可能性だってあるじゃない。決めつけるのはまだ早いわ。ほら、どっかの料理教室かなんかが数人集めて料理対決してて、今回は『よし、街の人にもお知らせしよう』とか思った調子に乗った料理の先生が、主催…した、のかも……しれ、ないような違うような…。ま、まあ、とにかく! ルーシーが今までのけ者にされてきたと考えるのは」
「いや、これ主催レストラン協会って書いてあるし、ちゃんとした大会なんじゃない?協会会長のコメントまで載ってるし、広場のテントは料理教室くらいじゃたてられないしさ」
「ちょっと、バズー! 水差さないで!」
「差さなくても今の説明は苦しいだろ」
「う……で、でもルーシーを説得できたらそれでいいじゃないですか!」
「そうだけどよ、調子に乗った料理の先生ってなんだよ」
「あーもう! 忘れてください!」
 一人震えるルシフェルをよそに脱線し始めた三人は、じりじりと焦げだしたテーブルに気がつかなかった。黒い煙がテーブルから上がり始めた時、やっと言い合いが終わる。
「……ぅぅううぅう…」
 低い声に、恐る恐る六つの瞳はルーシーを見た。黒煙を纏う彼女の表情は俯いていてわからない。だが、次の瞬間。
「国民が私を裏切ったぁー! 私に隠れて57回も料理大会なんて楽しいことやってたんだー! ずるいひどいなんで呼んでくれなかったのさ! うわーん!!」
「火を出すな、落ち着けぇえええ!」
「きゃー! 焼死だけは嫌ぁぁああ!」
「熱い熱い! ルーシー焦げる! うわわわああ!」

 今、城から煙上がってたなぁ。でも大したことないだろ。だな。さあ、仕事行くべ。
 残念なことに、城の異変に気がついても心配をする者は誰一人もいなかった。



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