【G殲滅大作戦】


~おまけ、彼女のトラウマ~


 デイズは伸びをした。両親が買い物に出かけ、二人での留守番。暇だから一人部屋で読書をしていたが、さすがに肩が凝ってしまった。
(お腹もすいたし、何か食べようかしら)
 時計を見れば時刻はおやつの時間。いいタイミングだ。デイズは部屋を出て、リビングに向かった。

 リビングには、双子の弟であるバズーがソファで眠りこけていた。手にはスナック菓子。食べながら寝てしまったらしい。
「っとに、だらしないわね。バズー、起きなさいよ」
 デイズはバズーを揺らした。すぐにバズーの目が薄く開く。
「…デイズ…?」
「あんたねぇ、寝るんなら片付けてからにしなさい。ケーキあったはずだから一緒に食べようか、なんて思った自分がバカらしいわ、まったく」
「…お腹、いっぱい」
「でしょうね。いいわよ、おやつは一人で食べるから。あんたはその食べかけ片付けて、べたべたの手を洗ってから寝なさい」
「んー…」
「こら、寝るなってば、もう」
 再び目を閉じてしまったバズーにため息をついて、デイズはキッチンを向いた。
(あとで毛布でも持ってこよう。とりあえず今は…)
 おやつのケーキに向かおうとしていたデイズは、いきなり襟首を掴まれて首が絞まった。
「ぐぇっ」
 軽く殺意を覚えながら振り向けば、眠気眼で袋を差し出すバズー。
「…あげる」
「私、食べ残し処理班じゃないんだけど」
 デイズの言葉は届いたのか届かなかったのか。バズーは返事をせずに夢の中へ旅立っていった。
再度ため息。
「お菓子の油ついちゃったじゃないのよ、バカ」
 デイズは襟首を気にしながら、バズーの手からお菓子を取った。中を覗くと、もうほとんど残っていない。
(ああ、もう!)
 仕方無しにデイズはキッチンに向かった。ケーキ、そうだケーキならば、このささくれ立った気持ちを元に戻してくれるだろう。あの雲のような生クリーム、舌を包み込む甘さ。疲れも一瞬で吹き飛ぶと言うものだ。
 が、しかし。
「……」
 デイズはキッチンの入口で固まった。そこには驚きで立ち止まる黒い姿。そう、Gだ。
(なんでいるのよ、掃除はしてるのよ何で何で何で。いいえ、落ち着くのよデイズ。相手は一匹。大丈夫、殺れる!)
 そうっと、側に積んであった新聞紙を取る。ゆっくり丸めて握り締めると、覚悟は決まった。一歩、踏み出す。
(動くな動くな動くな動くな)
 デイズの念が届いたのか、Gは動かない。勝利が見えてきた。デイズはにやりと笑い、新聞紙を振り上げて――。
「ひゃっ」
 叩くよりも早く、Gは飛んだ。顔に向かってきたGを恐れ、デイズは顔を腕でカバーする。しかし、Gは横を通り過ぎただけだった。デイズは後ろを向く。だが、奴はどこにもいない。
(どこに…? でもさっき後ろの方へ…)
 その時、ふと首に違和感を感じた。何だろう。デイズは首の後ろに手をやる。ヌメっとした感触に当たった。
「い、やぁあああああああ!!」
 Gは首にくっついていたのだ。バタバタと慌てるも、その反動でするっと背中に這っていく感触。
「やああああああ!!」
 もう駄目だった。デイズはまともに物を考えられないほど錯乱してしまった。混乱してしまった。脳内を占めるは、Gの不気味な感触だけ。泣きながら、けれど助けを呼ぶ言葉すら出てこなかった。


*


「っ!」
 がば、とデイズは起き上がった。心臓は爆発しそうなくらいドキドキしている。嫌な汗で全身べったりだ。
「ゆ、め」
 なんとか言葉にして現実感を掻き寄せる。そうだ、あれは夢だ。過去の出来事だ。しかし、あの感触はまだ体に残っていて。
 ふと、隣で寝ているバズーを見た。幸せそうに、夢の中だ。デイズはそれがあまりにも腹立たしくて、むくむくと憎悪が沸きあがる。
(こいつ、私があれだけ騒いでも全然気付かなかったのよね。必死になって私がアレを殺していた時も、ぐーすか寝てるし。なんとか殺せたからよかったものの、あの時の恐怖がどんなものだった
か…!)
 デイズは立ち上がった。そして、バズーの上に乗る。手を伸ばして、両手を首にかけて、そして――。

「ぎゃああああああ!!」
 遠くから響いた絶叫に、お茶をしていた四人は固まった。
「今のはバズー、でしょうか」
「普通じゃないぜ、行こう!」
「おい! ちょっと待て!」
「早っ! 二人とも早いよー! バアル、行こう!」
「ええ、行きましょう」

 四人はバズーの首を絞めるデイズを止めるのに、三十分かかったという。


FIN.


悪魔だろうと不老不死だろうとGはやっぱり恐いんですね(笑)
セツリ様、素敵で楽しい作品を本当にどうもありがとうございましたv



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