【大会に出よう!】


「こ、これは……」
 審査員の誰かが、呟いた。
 その場にいた全員が、その言葉をじっと待つ。そして。
「これは、里芋の煮っ転がし!」
 皿の上に、ジャガイモはなかった。


~5.結果発表~


「なーんでっやねーん!!」
 ルシフェルの叫びは天にまで届きそうなほどだった。その声をきっかけに、ざわざわと会場は騒ぎ出す。どれだけよく見ても、その皿の上にジャガイモの「ジャ」の字もなかった。そこにあるイモはどれも里芋。おいしそうな、里芋の煮っ転がし。
「バカァー!! なんで気付かないのよ、普通わかるでしょーが!!」
 デイズの声がバズーに届く。バズーはうろたえて、カインを見た。時間を気にして、また集中し過ぎて里芋だということに気付かなかったのは確かだが、ジャガイモだと言って渡してくれたのは、他ならぬカインなのだ。だが、そのカインも混乱していた。
「え、え? ジャガイモってあれだろ? 茶色くて、丸いイモだろ?」
「や、そうだけどさ、ジャガイモはこうボコボコしてるっていうか……カイン、お前ジャガイモ知らない訳?」
「ばっ、バカにすんなよ! イモだろ。イモ」
「カインさん、野菜嫌いにもほどがあります。今度八百屋で勉強しましょう。野菜を直視しましょう。手伝います、私!」
 バズーは、仕方なしに審査席のバアルとルシフェルを見た。だが、フォローしきれないらしく、二人とも目を合わせてくれない。
『え、ええーと、とりあえず、審査を……』
 司会者は歯切れ悪く言った。そろそろと審査員は食べ始める。
「あ、普通にうまーい。やっぱ煮物系上手だよねー」
「本当に、これは美味しいですね。里芋だったのが惜しい」
「おお、うむ、うまいのう」
「素朴な味ですわね」
 審査員たちは口々に言った。その反応になんとか持ち直したのか、司会者も背筋を正す。
『では、審査結果をお願いします!』
 審査員全員の声が重なった。
「失格」
 当たり前の結果だった。


∞∞∞


「元気出せって、な?」
「カイン、あんたは励ますんじゃなくて謝るんでしょ。イモ間違えて失格に追いやったのあんたじゃん」
「う……それは………バズー、ごめん。本当、すみませんでした!」
「誠意が足りない! 土下座しなさい!」
「なんでお前が言うんだよ!」
 ルシフェルの城へ帰ってきた一行。だが、バズーは机に突っ伏したまま動こうとしなかった。落ち込んだ時はうまいもの!という持論を展開したレヴァイアは、台所にこもってしまった。なら、私はとっておきの紅茶を、とバアルもリビングから出て行った。残ったのはルシフェルとカインのみ。
「って、あれ? デイズは?」
 きょろきょろとルシフェルが辺りを見回すと、廊下からデイズが走ってきた。さっきとは服が違う。着替えてたらしい。
「デイズ、着替えたの? なんで?」
「観客席でもみくちゃにされて、ぐちゃぐちゃになっちゃったのよ。って、バズー、あんたまだ落ち込んでんの? 失格だったけどみんな美味しいって言ってくれたんだからいいじゃない。男がうだうだしないの!」
 バシンっとデイズはバズーの背中を叩いた。しかし、バズーの表情は晴れない。
「お前、そんなに優勝賞品欲しかったのか? 高級料理食いたかったとか?」
 カインが首を傾げて尋ねると、バズーは口を尖らせた。と、その時、レヴァイアとバアルが部屋に入ってくる。ホットケーキと紅茶の甘い香りが、辺りを包んだ。それで心がほころんだのか、バズーは口を開いた。
「その、さ。煙草嫌いなデイズの前で煙草吸ったり、ちょーっと家事押し付けちゃったり、買い食いして買い物する金使っちゃったり、デイズ怒らしてばっかりだから、たまには姉孝行しようかなーって思ったんだ。高級なレストランの前とか通る時、食べてみたいとか言ってたから、優勝して券あげれば喜ぶかなーって。でも、結局失格なって、俺、なんかその、情けないっていうか、さ………ごめん、デイズ」
 大会出場理由に自分の名前が出てきたことに驚いて、デイズは一瞬固まった。そして、一拍置いて。
「な、によそれ。わ、私の為ってこと? バッカじゃないの!」
 デイズはバズーに背を向けた。
「あのね、そういうプレゼントとかいらないから! 悪いって思ってるんだったら、態度で示してちょうだい。その方がずっといいし、それに……」
 バズーは不安そうにデイズを見た。デイズはそっと向き直る。
「気持ちだけで十分嬉しいわ。ありがと、バズー」
 小さく微笑んだデイズを見て、バズーの表情はみるみるうちに晴れていった。そして、バアルが口を開く。
「さあさ、みんなでお茶にしましょう。レヴァくんのホットケーキはおいしいですよ」
「たくさん食べてくれ!」
「うっわー、すっごい分厚い! おいしそう!」
「おいルーシー、皿取ってくれ、皿」

 いつもの雰囲気に戻ったみんなは、テーブルを囲んだ。そこには笑顔と、楽しそうな笑い声が満ちていた。


∞∞∞


「……バズー。掃除終わったの?」
「ZZZZzzzz」
「寝てんじゃないわよ仕事しろー!」
 だが、どれだけ姉を想っても、態度に出せないバズーは今日も怒られるのであった。

おわり。


セツリ様、素敵で楽しい作品を本当にどうもありがとうございました☆



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