【浦島ラファさん】
1.みんなで劇をするようです
むかしむかし、あるところに浦島ラファさんという漁師がいました。彼は母親と共に、慎ましく暮らしていました。
ある日のこと。ラファさんが漁のためいつも通り浜辺へ行くと、二人の子供が立っていました。何をしているのだろう、と遠くから様子を窺うと、彼らの足元に緑色が見えます。どうやらそれは、ひっくり返ったカメのようでした。
「……いい気味ね」
口許にうっすら笑みを浮かべながら、二人の内の一人、デイズは言いました。起き上がれないカメに、余裕を見せ付けるように続けます。
「それじゃ、逃げることもできないわねぇ?」
デイズの視線は、同意を求めて隣のバズーに向けられました。バズーもデイズに、笑顔を返します。
「ああ、逃げられないなコレじゃ。かわいそー」
かわいそー、と言いながらも、バズーはカメを起こしてあげようとはしません。デイズと共に、ただ上から見下げているだけです。
「くっ……なめやがって…」
明らかに敵意を持っている二人を見上げて、カメのヨーフィは青くなりました。圧倒的不利の状況、しかし、キッと睨みます。
「逃げられないんじゃねぇ! カメ役なんだから仕方ないだろ! その気になりゃあ、お前らなんか簡単に出し抜けるんだからな!」
声は力強く、迫力がありました。しかし、ひっくり返って甲羅の腹を見せている姿では、なんとも滑稽です。
「威勢がいいね。ま、でも、そう言うなら俺らもカメをいじめる子供役、頑張らなきゃいけないな。なあ、デイズ?」
笑みを一層深くして、バズーとデイズは挟み込むようにしてヨーフィの脇に立ちました。そしてすぐに。
――コツン
ヨーフィは蹴られました。甲羅が傾いで、ぐらん、とします。
「おい! なにを」
――コツン、コツン
左右から交互に蹴られます。甲羅はぐらんぐらんします。
「ちょ、マジでッ」
――コン、コン、ゴン
蹴る力は次第に強くなります。このままでは、サッカーボールになるのも時間の問題です。
「やめ……助けてぇー!」
ヨーフィの悲鳴が砂浜に響き渡りました。か弱いカメが、このままではボロボロになってしまいます。
その時、ザッと音がしました
浦島ラファさんです
ラファさんは、少し離れた所に立っていました。双子は蹴るのをやめて、ラファさんを見ます。ヨーフィも、きらきらと目を輝かせてラファさんを見ました。
「ラファ兄!」
「あら、浦島さん、何のご用かしら?」
いじめっ子らしい鋭い目つきで、デイズはラファさんに尋ねました。バズーは少しだけ構えています。ラファさんは立っているだけで、ちょっと威圧感がありました。
「ラファ兄、助けてっ」
ヨーフィは助けを求めます。そして、カメをいじめるな、という台詞をわくわくしながら待ちます。
しかし、ラファさんの口から出てきた言葉は予期せぬものでした。
「手緩い」
「え」
ヨーフィは固まりました。ラファさんは続けます。
「やるからには徹底的にやったらどうだ? 武器はないのか」
「武器……か」
バズーはそっと砂浜を見回しました。流れ着いた流木や板が、ちらほらあります。
「ままま待ったァ! 浦島はカメを助けるの! そんな提案しないの! 台本読んだでしょ!?」
わたわた、とヨーフィは喚きました。しかし、ラファさんの表情は変わりません。僅かに口許がほころんでいるようにも見えます。
「どんなことも、全力で務める。これのどこが悪い」
「イジメを助長する発言はどうかと思います!」
「最後は私が助けてやるんだ。存分にいじめられろ」
「ラファ兄のいじめっ子ー!」
ひどいと非難するヨーフィの脇で、デイズとバズーは棒を手にしました。二人はうっすら笑っています。それを見て、ヨーフィは命の危機を感じました。
「来るなッ! こっち来るな!」
じたばたしても逃げられません。
「「両親の敵ィ!!」」
「ぎゃああぁぁあ!」
悲鳴は虚しく浜辺に響いていったのでした。
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