【浦島ラファさん】


7.劇は終わりました

 お疲れ様でした。ぶっつけ本番だった割には、まあなんとかなったんじゃないでしょうか。出演者の皆さんは、お疲れと声を掛け合いながら休憩しています。
「あー、終わった終わった! 私女優を目指してもいいかもしんないね!」
 ごくごくとジュースを飲んで、ルシフェルは言ってのけました。
「どこからんな自信が湧いてくるんだか。演技と言えねぇよあんなもん」
 お菓子を頬張りながら、カインが返します。横から手を出して、レヴァイアも話に加わりました。
「そだなー、ルーシーはまずセリフ覚えなきゃだなー」
「ぐっ、ま、まあ今回はたまたまね! あ、レヴァくん大丈夫? 腕」
 レヴァイアは自分の腕を眺めました。ラファさんに握られたところが痣になっています。
「うーわ、痛そうな色してんなぁ。足払いもかけられてたっけ?」
「そうなんだよ、もう俺、役ももらってないのに酷い扱いじゃね?」
「あ、そうだね、役あったの私とカインとデイズとバズーで……あれ、双子は?」
 三人がキョロキョロ辺りを探すと、双子は隅の方にいました。こっちに来なよ、と言おうとしたルシフェルは、耳に入ってきた会話に固まりました。
「……あ…で、棒じゃなく……」
「…うね……もっと……凶器…」
 ぼそぼそ、ぼそぼそ。どうやら今回の反省をしているようです。ルシフェルは何も見なかった振りをして踵をかえしました。
「そうそう! バアルの出番なかったよね。どっかに出ればよかったのに」
 何事もなかったかのように会話を続けます。カインも腕を組みました。
「そういや、そうだな。ミカエルも、バアルが出ないなら出ないって言ってたし。結局二人は……って、二人はどこだ?」
「あっれ、どこだろ。あ、なんかあっちの方が騒がしいぜ」
 レヴァイアは廊下の奥を指しました

**

 扉の前で、天使たちが集まっていました。場には緊張した雰囲気が漂っています。
「主よ! この扉を開けてください!」
「ラファさんの言うとおりです。開けてください!」
 ラファさんとアザゼルが悲痛な声を上げています。ヨーフィもどうしていいのか、うろうろしています。
 少し離れた場所で立っているバアルとミカエルに、ルシフェルたちは近づきました。
「ど、どうしたのバアル! ミカちゃん! 神様いんの? なんで!?」
 ルシフェルが尋ねます。それに、バアルはゆっくり首を振りました。
「わかりません。一応敵ですからね、これ以上は近づけなくて」
「僕も、敵対しちゃったから近づけないんだ。だから事情はまだ」
 一体何が。悪魔たちにも緊張が高まります。そこに、ヨーフィの叫びが響きました。
「神様! いくら母親役もらって喜んでたのに結局名ばかりで出番一切ないことに落ち込んでも、引きこもっちゃダメですよー!!」
 それに答えるように、中から声がしました。
「べ、別に我は引きこもってなどないぞ! ここの居心地がよくて出たくないだけだ!」
「主よ、それを引きこもりと言うのです。天界に帰らなきゃいけないんですから、早く支度して出てきてください。置いていきますよ」
「置いてく!? 我を置いていこうというのか!」
「だから早く出てきてください。子供みたいにだだこねて、まったく」
 ラファさんの舌打ちが響きます。
「汝まで我にそんな態度をとるというのか!」
「ラファさん、引きこもりにはもっと優しくしないと。厳しくしても自分の殻に閉じこもるだけだって、この本に」
 アザゼルは『引きこもりから脱出させるには』という本を見せました。
「我は引きこもりではない!」
「なら、出てきてください」
「それはできん!」
 そんな押し問答を見て、バアルとレヴァイアは廊下を戻り始めました。
「さあて、私たちも帰る準備しましょうか」
「よし、双子にも声をかけるか。あ、カイン、お菓子忘れないようにな」
「ちょ、ちょっとお二人さん! いいの? 無視していいの!?」
 ルシフェルの慌てた声にも、二人は落ち着いて返します。
「天使にまかせておけって。ああいう時の神様ってめんどいから」
「ええ、本当に、めんどくさいですよね」
「え、んと、いいの、かな…?」
 首を傾げるルシフェルの横を、カインは通りました。バアルとレヴァイアについていきます。
「俺、帰るわ。なんか、ほら、あんなんに、呪われたんだなあと思うと、さ」
「カイン、今日は飲もうぜ!」
「私の秘蔵のワイン、開けますよ!」
「お前ら、ありがとう!」
 男の友情を深めつつ去っていく三人を見送ってから、ルシフェルはミカエルを見ました。
「ミカちゃん、どうする? 私は、ここにいても邪魔だし、帰ろうかな、って」
「僕は……」
 ミカエルは振り返りました。その時、ラファさんと目が合います。
「!」
 ずんずんと、ラファさんが近づいてきました。ルシフェルとミカエルは身を固くします。
「ミカエル」
 ラファさんの低い声が耳に入りました。
「力を貸せ」

**

 カーラースーなぜ鳴くの。でおなじみのカラスさん。ミカエルの周りにわんさかと集まっていました。帰り支度を終えた悪魔軍が、その光景を見て驚きます。
「すっげー! なになに、これどうしたの!」
 レヴァイアがルシフェルに尋ねます。
「ラファさんが、カラス使って光りもの集めろって言って、こんな状況」
「おや、カゴの中がキラキラと。あれが成果ですか素晴らしいじゃないですか!」
 バアルは目を輝かせましたが、カインが横やりを入れました。
「よく見ろよ、瓶の王冠やビー玉ばっかだぜ。ガラクタじゃんよ」
 それに、バズーが頷きます。
「カラスって、光ってれば何でも持ってきますもんね。仕方ないんじゃないですか」
「それにしても、あんなに集めてどうするのかしら?」
 デイズの疑問には、誰も答えられません。とりあえず、状況を見守ることにしました。
「ラファ兄! こんなにどうするの?」
 ヨーフィはラファさんを見上げて聞きました。ラファさんはカゴの取っ手を持ちます。
「持ってくんだよ、アザゼル、反対側持ってくれ」
「はーい。持ってって神様出てきますかね?」
 カゴが地面から離れました。結構な重さです。
「出させるんだ。ミカエル、助かった礼を言う」
 持ったまま、ラファさんはカラスに囲まれたミカエルを見ました。そして片手を上げます。
「いえ、でもこれで大丈夫なんですか?」
 不安そうなミカエルに、頷きます。
「ああ大丈夫。見届けるか?」
 天使たちにミカエルはついていきました。それを、悪魔たちも追いかけます

**

「主よ」
 ラファさんは呼び掛けました。
「先ほど、見たこともない光りものを見つけました。キラキラとそれは光を反射して輝いております。主を傷つけてしまったお詫びに、それらを集めて持って参りました。どうぞお納めください」
「………光りもの、とな?」
 中から声がしました。先ほどの頑なさはありません。
「はい。主に似合うであろう、大量の光りものです。扉を開けて、その目でご確認ください」
「………」
 こそこそ、と悪魔たちは囁き合いました。
「こんなんで出てくるのかよ」
「神様なんだから、無理でしょ」
「そうは言い切れませんよ」
「神様だからなぁ」
「あ、バズー見て」
「ああっ、ドアが!」
 ガチャ、と音がして、ルシフェルは叫びました。
「本編で会ってないのに会えないわ! みんな、撤退!!」
 ぐっとミカエルを引っ掴んで、悪魔軍は風の如く走り去りました。気にも留めずに、ラファさんは姿を現した神様にカゴを見せます。
「我に似合う、光りもの……とは、まさかコレ――」
「さあさあ、帰りますよー。ヨーフィ、アザゼル、忘れ物ないか? ないな? はい出発ー」
「ら、ラファエルよ、ちょっと待」
「ああ神様」
 ラファさんは神様を見て微笑みました。
「カゴを、お忘れなきように」
 天界一強いんじゃないか。のちにヨーフィとアザゼルは、ラファさんのことをそう証言したといいます
 とにかく、みなさんお疲れさまでした

おしまい

おまけ。

「うわあ、ミカちゃん! この大量の果物どうしたの!?」
「なんかラファさんがあの時のお礼にってくれたのー。律儀だよねぇ。あ、後でおすそわけ持ってくねん」
「やったありがと! あ、でもミカちゃん、本当に劇出なくてよかったの?」
「うん、バアルさんが出ないなら僕も出なくていいのよん♪」
「えー見たかったのにぃ」
(こっそりバアルさんについてって魚役やったからいいんだよーふふふ)
 どこまでも、バアルについていくミカエルです。



セツリ様、ドタバタ賑やかで可愛らしい作品をどうもありがとうございました♪



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