【白雪姫ルシフェル】
1.魔法の鏡
むかしむかし、ある王国で可愛らしいお姫様が生まれました。雪のように白い肌は誰もが絶賛し、白雪姫ルシフェルと名付けられました。
その後、なんだかんだでお妃様が亡くなり、王様は頃合いをみて再婚し、王様もなんだかんだで亡くなり、後妻であるバアルが実権を握りました。その手腕はなかなかのもので王国は発展していきました。
そんな女王バアルには秘密がありました。
「鏡よ、鏡」
それは夜な夜な魔法の鏡に問いかけることでした。
「世界一美しいのは誰ですか?」
それはお前だ、と鏡の精はいつも犯人をあばく探偵の如く答えてくれました。それを聞いて、バアルはまた明日も頑張ろうと思えたのです。けれど、今回は違いました。
「鏡の精サタン、答えなさい」
「それは白雪姫ルシフェルだ!」
サタンは自信満々に答えました。そして、懐から写真を取り出します。
「ほら、かっわいいだろ~」
写真は何枚も出てきました。デレデレとサタンはルシフェルを褒めて止まりません。
「これが初めて立った時、これが初めて歩いた時、それから」
「それ何枚あるんですか。まさか今の年まで」
「あるに決まってんだろ! 遠慮せずに聞けって」
「そんな娘自慢いりません。というか今は私の義理娘です。さっさと鏡役しろ」
「機嫌悪いな。性悪継母役をラファに笑われたくらいで拗ねるなよ。広い心で…」
――ゴンッ、パキッ
鏡にヒビが入りました。けれど、そのヒビを作ったバアルの拳は傷一つ付いていません。
「鏡役」
ドスのきいた声に、サタンは写真をしまい姿勢を正しました。
「はいっ、俺は鏡の精です! ちゃんとやります!」
バアルは鷹揚(おうよう)に頷いてから咳払いを一つしました。
「では、改めて。鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰ですか?」
「はい! それは白雪……」
サタンの言葉が止まりました。何に気づいたのか、顔が横を向きます。バアルは首を傾げました。
「サタン?」
「いや違う。世界一美しい者それは」
サタンは両腕を広げます。
「リリス、君しかいない!」
「え?」
「あなた…!」
サタンの胸に飛び込んだのはリリスでした。
「ちょっと! なんでリリスがいるんですか!?」
バアルの言葉は二人に届きません。リリスはサタンの腕の中で涙ぐみました。そして、上目遣いで謝罪します。
「ごめんなさい、あなた。どうしても会いたくなって来ちゃったの」
「いいんだ、リリス。俺も会いたいと思ってたところさ。世界一美しいマイハニー」
「あなた……いいえ、世界一格好良いマイダーリン」
鏡の向こう側で繰り広げられる二人の世界をバアルはポカンと見ていました。なんだこいつら。そもそも何故リリスが。
バアルは手を叩きました。
「そういえばリリス、役が無いこと愚痴ってましたっけ」
サタンにあって私にないなんて、と呟いていたのをバアルは思い出しました。
「側で出る機会を狙ってたんですね」
「何を言ってるのかしらバアル。そんなんじゃないわ、サタンを愛するがゆえよ」
二人の世界にいたはずのリリスが言い返しました。その笑顔は少し怖いです。バアルは視線をそらしました。
「ま、まあ、それは置いといて。そろそろ本筋に戻ってほしいんですが」
しかし、サタンはリリスを抱きながら「でもなぁ」と言いました。
「世界一美しいのはリリスだし」
あなたったら、と顔を赤らめるリリスを無視してバアルは詰め寄ります。
「このままじゃここで終わりますよ。せっかく主役をもらったルーシーをがっかりさせて良いんですか?」
サタンは唸りました。うんうん唸って、そしてひらめきました。
「世界一美しいのがリリス、世界一可愛いのがルシフェル!」
これですべて解決したといわんばかりにサタンは自信満々です。バアルはため息をつきました。もういい、もう関わりたくない。
「じゃあそれでいきます。世界一可愛いのが自分じゃなくルシフェルなのが許せない継母でいきます」
「おう! じゃ、また出番になったら呼んでくれ」
「じゃあね、バアル」
にこやかに去って行く二人を、バアルは疲れた顔で見送りました。
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