【白雪姫ルシフェル】
2.刺客
「失礼しまーす」
女王バアルに呼ばれた猟師レヴァイアは、絢爛豪華な謁見部屋に目をぱちくりさせました。
「あれ? さっきまでもっと質素なセットじゃ…」
バアルはふっかふかの椅子に座り、傍らの召使いミカエルにお酌をさせていました。美しいドレス、きらびやかなアクセサリー、肘をつき足を組む横柄な姿。まさに女王様です。
「えーと…」
予想していたのと全く違う状況にレヴァイアは戸惑いました。所在なさげに立ち尽くします。バアルは自分が呼びつけたというのに、レヴァイアを無視してワインをゆっくり味わっていました。
レヴァイアは助けを求めるようにミカエルを見ます。目が合ったミカエルはにっこり笑顔を見せました。
「あ、このセットはさっき急遽用意したんですよん。女王にふさわしいセットじゃなきゃ駄目だって、バアルさんが。ドレスもアクセサリーも全部一新!」
「一新って、なんで」
コン、とグラスがサイドテーブルに置かれました。
「これくらいしなきゃ、やってられませんよ」
むっとしたバアルの声。レヴァイアはビクッとしました。なんで機嫌が悪いんだ。
「ミカエル」
「はーい」
ミカエルはグラスにワインを注ぎました。それをバアルは一気に飲み干します。
「あのバカ夫婦と一緒の場面がまたあるんですよ。一人でも大変なのにリリスまで出てきて……絶対次も出てくる。でもってすんなりいかないんです。飲まずにいられますか」
「お、お疲れさまです…」
おいおいサタン、一体お前は何をした。レヴァイアは心の中で突っ込みました。
「だからと言って、ここで私が進行を止めてはバカ夫婦と同じになってしまう。てことで、猟師レヴァくん」
「はいっ」
レヴァイアは元気良く返事をしました。ああ良かった、なんとか進みそうだ。ホッと胸を撫で下ろします。
「白雪姫ルシフェルを殺して心臓か臓物か、なんでもいいから証拠を持って帰ってきなさい。証拠は料理して出すように。私が食べます」
「………え?」
レヴァイアは聞き返しました。白雪姫を殺すように命令されるのは台本を読んだので知っています。しかし、心臓なんて臓物なんて文字はどこにも。
「ハッ! これグロい方か! 子供用のマイルドなストーリーじゃなくてグロい方の話か!」
「そうですよ、わかったら早く行きなさい」
「もう台本なんて、あってないようなものですねん」
「ほのぼの言うことじゃないからね!? ミカエル笑ってる場合じゃないからね!? お前の憧れの人が少女の臓物食うっつってんだよ!?」
「バアルさん、ワイルドで素敵ですぅ!」
「ああもう、こいつの憧れフィルター舐めてた!」
レヴァイアが頭を抱えて喚いていると、イラついたバアルがグラスを投げました。レヴァイアの足元でグラスが割れます。
「うるさい、行け、命令」
「はい、すみませんでした! 行ってきます!」
レヴァイアは脱兎の如く駆け出しました。
「……八つ当たりして少しスッキリしましたね」
バアルはポツリと言いました。
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