【アザゼルの音楽祭】
4.それから
ラファエルが素晴らしい聴覚でアザゼルの居場所を特定した直後、ヨーフィは瞬間移動を行った。見慣れたマスクの天使を視認して開口一番、叫ぶ。
「アザゼル! 音楽祭、合奏しようぜ!」
これはラファエルの提案だった。受理されたエントリーを勝手に取り消すなど天使にあるまじき行為である。ゆえにアザゼルを出演させつつ被害を最小限に抑える方向で考えたのだ。
「俺はオカリナ、ラファ兄はフルートだぜ!」
「ちょっと待て、なんで私まで入っているんですか」
がしっ、と真後ろからヨーフィの頭を掴んだラファエルは非難を込めた目で見つめる。
「任せろって言ったラファ兄が動かないとみんな納得しないって。つーか俺ひとりで抑えられる気がしない!」
「む、それは…まあ、そうか……」
納得したラファエルはヨーフィを放した。そんな二人を見ていたアザゼルは顎に手を当てて数秒思案し、こっくり頷く。
「丁度よかった。僕、新しい楽器で出ようと思って買ってきたんだ。これから練習しよう」
そう言ってアザゼルが見せたのは銀色の棒が飛び出した箱だった。ラファエルの顔色が変わる。
「えー、なんだよコレ。楽器かぁ?」
「そうだよ。説明書読んだ限りでは楽器だった」
ぺらっと説明書が差し出された。そこにはこう書かれていた。
『電子楽器 テルミン』
ふーん、とヨーフィの反応は薄いがラファエルは「うわ…」とおののいていた。博学なラファエルはその楽器を知っている。ふわふわと風に動かされる葉の如く揺れる音階を操り、たなびく布のように滑らかなメロディーを紡ぎだすテルミン。それは一歩間違えると、不安定な音階を無闇に揺さぶり不協和音を響かせる魔の楽器に成り下がる。
「……トランペット要員も入れよう」
ギターよりもたちが悪い。ラファエルはひきつる顔で、とにかく音のでかい楽器を入れなくてはと頭を回転させた。
◇
後日、開催された天界音楽祭。
アザゼルの周りはトランペットとシンバルが固め、辛うじて被害者は出なかった。
また蛇足だが、魔界では女帝の一言により大規模な音楽フェスが開催された。
おわり。
おまけ。
《天界》
ヨーフィ 「が、頑張ったよ、俺たちぃ! 身近で延々とアレを聞いても倒れなかったよぉ!」
ラファエル「お疲れ様でした。よく頑張った、私たち! 功労者の方々には特別手当てが支給されます!」
ヨーフィ 「やったあああ!」
ラファエル「なんと休暇ももらえる!」
ヨーフィ 「よっしゃあああ!」
アザゼル 「…? 二人とも、熱がすごいねぇ」
ラファ&ヨーフィ((お前が原因だよ…!))
《魔界》
バズー「なんで俺、ドラム練習してんの……? なんでカインさん、先生役なの…?」
カイン「口は災いのもとってこった…。ほれ、バチ持って」
バズー「なんでルーシーは『ついでだから音楽フェスやろう!』って言い出したの……」
カイン「悪ノリしたレヴァイアのせいだよ。ほれ、楽譜これな」
バズー「…絶対バアルさん、全部知ってますよね」
カイン「俺たち見て吹き出したからな。ほれ、ハンカチ。涙拭けよ」
バズー「うわあああん!」
カイン「強く生きろ…! 強く生きろ俺たち!」
セツリ様、楽しいお話をありがとうございました。マイペースなアッくん最高ですっ。
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