【ミカエルの家出】
05.仲直り
バアルは自室で数日前の大人げない自分を少しだけ恥じていた。怒鳴るのではなくこう、真後ろから一瞬で意識を奪い反省を促せば即日終了しただろうに、なぜ真正面から口喧嘩をしてしまったのか。吹っ飛ばしたレヴァイアも帰ってこないし、まあ多分というか確実にルシフェルの所にいるだろうからそろそろ迎えに行った方が……。
「はあ、面倒臭いですね」
いっそのこと久々にお一人様旅行でもしてみようかなぁ、なんてバアルが現実逃避を始めた頃、ノックは響いた。
「バアルさん」
その声はミカエルだった。どうやら謝りに来たらしい。やっとかと思いつつその沈み切った声色に、バアルは「仕方ないですねぇ」と苦笑しながらドアへと向かう。怒りはもう微塵もなかった。もちろん未だに「お揃いしたい」とか言うのなら一撃で仕留めるつもりだが、この様子ではそれはないだろう。ならば、こっちもきちんと謝ってしまおう。そうすれば元通りだ。
「なんですか、ミカエル」
ドア越しにそう尋ねれば、間を開けて返答があった。
「あの、僕、レヴァ先輩に言われて気付いたんです。お揃いをしたかったのはバアルさんに近づきたかったからで、それは言い変えれば好かれたかったんだって」
バアルは無言で聞いてやる。
「それで、お揃いじゃなくてバアルさんに好きになってもらえる服を着ればいいんじゃないかってアドバイスもらって、それで……」
その健気な好意は冷徹なバアルにちょっぴり笑顔をもたらした。ミカエルは根は良い子なのだ。だから悪魔軍に寝返ったのだし、こうしてバアルも城に住まわせてやっている。
「その気持ちだけで十分ですよ。さあ、入って――」
「それで、マンイーター香水が好きだって聞いたので」
バアルはミカエルの言葉をしっかり聞く前にドアを開けた。
「マンイーターファッションにしてみました!」
そこにいたのはマンイーターだった。木の根っこのような足を持ち、複数の触手が生え、派手な色をした花弁の中央にぱっくり大きな口を開く、肉食植物マンイーター。ミカエルの顔はその口の中にあった。食べられているのかと一瞬錯覚してしまう。よくよく見れば、それは着ぐるみだとすぐに分かった。
「バアルさ――」
即座にドアを閉める。あまりの勢いに蝶番が軋んだようだが気にしてはいけない。とにかくバアルはドアにカギをかけて、部屋の中へ戻っていった。なんかものすごい面倒事が起こってるっぽい。すごく疲れる案件が舞い込んできた現状に思わず呟きが漏れる。
「なにがどうしてそうなった」
バアルはぐりぐりと目頭をもみほぐしながらミカエルの言葉を思い起こした。
『レヴァ先輩に言われて気付いたんです』
『レヴァ先輩に言われて』
『レヴァ先輩』
バアルは窓を全開にし、身を乗り出した。
「レヴァイア、テメェ覚悟しとけよゴラァァアアァ!!!」
後日、ミカエルは説得されてマンイーターファッションから卒業。女帝の城では着ぐるみがブームになり、一時期全員のパジャマが着ぐるみ仕様になったという。
ちなみにレヴァイアはボロ雑巾になって発見された翌日、普通に居酒屋で飲んでいたらしい。魔王ってすごい。
終わり。
セツリ様、楽しいお話をありがとうございました。ミカちゃん、ひたすら健気…!いつかバアル様に想いが届くといいですね。頑張って!
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