【G殲滅大作戦】
真夜中のある一室で、男女四人は肩を寄せ合って震えていた。
(なんだあれ、なんだあれ、なんだあれ! ヌメってした! なんかヌメってした!)
(いーやー! カイン寄らないで! こっちくんな!)
(私は何も見てない私は何も見てない夢よ夢よ夢)
(デイズ! 戻ってこーい! 俺を一人にしないでくれぇ!)
なぜか、どれも小声だった。
~1.勇気ある撤退後~
キッチンから逃げに逃げて辿り着いたのは、一番端の使われていない部屋。四人はそこで輪になっていた。空き部屋だから、テーブルや椅子はもちろんない。床に座っての輪である。
「…なぜ俺との間に微妙な隙間を作る」
みんなの混乱が治まった時、カインは両隣のルシフェルとバズーを交互に見やった。
「だって、あんた奴とくっついたじゃない」
ルシフェルは汚いものでも見るように、顔を歪めてカインを見た。さっき泣きまくったからか、目が腫れている。しかし、泣いた分落ち着いたようだ。
「だからって俺全否定ってひどくない?」
「ま、まあ、仕方ないですよ。だってアレですよ、出てきたの」
間に入ったバズーの笑みはぎこちなかった。先頭切って逃げ出したのは、他でもないこのバズーだ。少し後ろめたいものが、彼にはあった。
「そうだ、あの虫はなんなんだよ。変な生き物がいるのは知っていたけど、あんなに素早くて小さくてヌメヌメしたのは初めてだぜ」
「そっか、カインは見たことなかったっけ」
「そう言いつつ間広げんな」
ぼそぼそ、とその時声がした。はっ、と三人は一人を見る。そう、蹲ったままびくともしなかったデイズからだ。
「…あれは、G……」
ひどく暗い声は、冷たい空気に溶けていくようだ。ルシフェルはデイズからそっと離れた。嫌だと全力で拒否していたカインに寄っていく。
「私達を脅かす、悪の生物…それが、奴ら…」
怪談を語るような静かな声は、その場にいる三人の背筋を凍らせていった。伏せられていて見えないデイズの表情。それが更に、恐怖心を煽る。
「残飯を漁る卑しさ、素早い逃げ足、追い詰められても足掻く往生際の悪さ。そう、勝ったと確信した瞬間、絶妙なタイミングで奴らは切り札を出す。散々地べたに這い蹲っていたというのに、最後の最後で羽を出すのよ。なにそれ。卑怯じゃない。いいえ、わかっていた。羽があることなんて初めから。それを思い出せずに戦っていた私が悪い。ええ、ええ、わかってる。考えが足りなかったのよ。私の、策が。卑怯卑怯卑怯汚い汚い嫌よ嫌い嫌い嫌い」
「うわーん! デイズがおかしくなったぁ!」
「デイズ! 俺だ! 気付け! 双子の俺を思い出せぇ!」
まさか、とこの時カインは思った。避難したばかりの時は自分も混乱していたが、よくよく考えてみると最年長は自分だ。この再び泣き出した女帝と、頼りない少年と殻に閉じこもった少女の双子。それをまとめなければならないのだろうか。
(え、嘘。このよくわからない状況で? 子守しろって? 俺が?)
「デイズー!」
バズーはデイズの両肩を持ってガクガク揺らした。正気に戻ってくれ、と念じながら喚きながらガクガクガク。抵抗しないデイズは、その拍子にカクンっと首を仰け反らした。そのまま後ろに倒れ、動かなくなる。
「デ、デイズ…?」
バズーは恐る恐る声をかけた。しかし、返事はない。
「死んだー! デイズが死んだー! バズーが殺したー!」
「え、え、ええ!? 俺!? 嘘! デイズ!? デイズー!」
ふと、カインは我に帰った。死んだと泣き叫ぶルシフェルとごめんと偲び泣くバズーの声が鼓膜に響いてくる。
「って、死んだ!?」
カインは慌てて倒れているデイズのもとに駆け寄った。脈を確かめると、ちゃんとある。死んでは、いない。
「バカ! 死んでねーよ! 気絶してるだけだ!」
すると、弱々しい表情が二つカインを見上げた。
「ほ、ホントっすか?」
「だって、カクンって…動かなくなって…」
「生きてる生きてる! 安心しろ、そして俺に情報を与えろ!」
カインはため息をつきながら覚悟を決めた。
わからないことだらけだが、なんとかしよう。それしか道はない。
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