【G殲滅大作戦】
1.虫の名前はGである。
2.素早い、飛ぶ。
3.暖かいと出てくる。
4.壁を走る、天井も走る。
5.基本、叩き潰す。
~2.作戦会議~
「綺麗にしてれば、発生しないんですけどね」
暗い表情で、バズーは言った。それは、散々掃除をしてもすぐに散らかすずぼらな女帝に向けられていた。ルシフェルは居心地悪そうに、視線を逸らす。
出したら出しっぱなしの生活スタイルを指摘しても三日と持たない。その癖自分の部屋だけは時々掃除しているのだ。言い訳はできない。
「キッチンだけは、って思ってたんです。料理には火を使うし、いくら夜寒くなるからって暖まりやすいのは確かだから。こまめにデイズと掃除してた。でもなぜか、数日経つと食べかけのお菓子や出しっぱなしのジュースとかがあって」
カインは隣のルシフェルに棘のついた視線を刺した。逃げるように、ルシフェルはあらぬ方を向く。
「不衛生で暖かい場所に出てくる。そう分かっていたはずなのに…!」
バズーの隣には、気絶したままのデイズが横たわっていた。幼き頃のトラウマに負けた彼女の姿が、今の現状がどれほどのものかを訴えてくる。
無言の圧力。それに、ルシフェルはとうとう屈した。
「ごめんなさい…ずぼらでがさつで、ごめんなさい…だからそんな目で見ないでぇー!」
ルシフェルは顔を覆って俯いた。しかし、カインはすぐバズーに向き直る。
「お前の話で虫についてはわかった。今後について話し合おう」
「私はほったらかしかいっ」
「慰めてもらえると思うな。一人で反省してろ」
「ううう…真っ当な意見に何も言えない……」
向き合った男たちは真剣な表情で頷き合った。女は当てにできない。自分たちの力で乗り越えるしかない!
「問題は、どうやってGからキッチンを取り戻すかです」
「あそこは奴らの住処になってるみたいだ。根こそぎ退治するしかないな」
「そもそも何匹いるんでしょう? 俺たちが見たのは一匹だけど、生命力だけは強いからもっといるはずだと思います」
「一気に殺すには、か」
今更掃除したところで、今いるGは殺せない。だからといって、もぐら叩きの要領で攻めてもこちらが不利だ。相手の数は未知数。効率のいいやり方を考えなければ、城が占拠されてしまう。
「…バアルがいてくれたらな…」
体操座りで一人反省していたルシフェルは呟いた。彼がいれば、奴らを凍らせるなんて容易い。
「ないものねだりをするな。現実を…そうか!」
いきなり拳を握り締めたカインに、二人は驚いた。カインは高々に思いついた策を告げる。
「寒さだ! 奴らの弱点は寒さ! 気温を下げて奴らの素早さを鈍らせる。そこでお前が根こそぎ燃やせ!」
びしっと突きつけられた人差し指。ルシフェルは物凄い勢いで首を左右に振った。
「ムリムリムリ! あれを直視するとかムリ! 鈍らせるって言っても奴ら動くじゃん!」
「もとはお前が原因だろ。ちったあ気合入れろ」
「そーんーなぁー」
おぞましいGのフォルムを思い出して、ルシフェルは涙目になった。カインは決定事項だと言わんばかりに胸を張る。そこに、バズーがおずおずと挙手をした。
「でも、どうやって? バアルさんなら出来ますけど、俺たちだけで気温を下げるって…」
「冷凍庫に氷あるだろ。それを……あ」
冷凍庫。それはGの住処である。正しくは住処の真上だが、同じことだ。
取 り に 行 け な い。
「ふっ…」
「今、鼻で笑ったな。嘲笑いやがったな!」
「気のせいじゃな~い?」
「じゃ、その見下してる表情はなんだー!」
「落ち着いてー! 喧嘩しないでー!」
折角の話し合いも無駄に終わりそうな状況。それを打破したのは、今までじっとしていた彼女だった。
「…バ、ズー」
「デイズ!?」
目を覚ましたのか。バズーは駆け寄って、デイズの手を握った。弱々しい声に、バズーは耳を近づけて聞き取る。
「…わかったよ、デイズ」
そうバズーが強く頷くと、デイズは再び目を閉じた。
彼女らしい、穏やかな表情だった。
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