【宝を探せ!~天界の秘宝~】


5.結局は

 コポコポ、と音を立てて紅茶はカップに注がれる。ランプの明かりに照らされながら、ヨーフィとアザゼルはそれを見ていた。湯気の立つ紅茶は、ラファエルの白い手で二人の前に置かれる。
「どうぞ」
「ありがとうございます。にしても、ラファさん遅いお帰りですね」
 カップに口をつけながら、アザゼルは言った。自分の分を注ぎながら、ラファエルは答える。
「まあな、この前魔界に行ったろ。そん時の事後処理がまだあるんだよ」
「へぇ、大変ですね。あ、これおいしい」
「それはよかった。で、質問があるんだが」
 椅子に座り、紅茶を一口飲んだところでラファエルの目は鋭くなった。アザゼルはカップを置き、かしこまる。
「何してたんだ、人の家で」
「えーとですね」
 アザゼルはテーブルの上に今まで得た暗号の紙と、ハーブの中から見つけた箱を置いた。そして順番に説明していく。
「ヨーフィくんが、この暗号を見つけたんです。で、お宝探しが始まって、この暗号を辿ったらラファさんのハーブ畑に行きついて、この箱を得たという訳です」
 ラファエルは箱に挟んである紙をつまんで、読んだ。
「……私の誕生日はもうとっくに過ぎたぞ」
「ですよねぇ。確か魔界へ行く日、でしたっけ。予定してた誕生会中止になって、一応後日プレゼントだけ渡しましたもんね。僕は花束で、ヨーフィくんは手作りプリン」
「…………」
 ヨーフィは俯いたまま黙っている。二人の視線が突き刺さって痛いだろうに、紅茶にも手をつけず微動だにしない。
「だが、ここに私宛の誕生日プレゼントがある。はてさて、なぜだろうなぁ」
「不思議ですねぇ」
「……う」
 ヨーフィは肩を震わせ、ぐいっと顔を上げた。
「そうだよ、俺がラファ兄に用意したプレゼントだよ! 毎年ただあげるんじゃ面白くないと思って暗号まで作って準備して、あとは一番初めの暗号をラファ兄の家に置いてくるだけって時になって出動命令来てさ! そのまま忘れてたんだよ! 忘れて今頃見つけて、自分で作った暗号だと気づかずに全部自分で解いちゃったんだよ! 笑うなら笑え! うわーん!!」
 テーブルに突っ伏し泣きだしたヨーフィに何と声をかけていいものか、とアザゼルは首を傾げた。
「あ、でも、だから全部の暗号をヨーフィくんが解いたのか。自分で作ったんだもんね」
「そうだよ、俺頭いいとか思ったけど、違ったんだよ、うわああん!」
「うるさい、泣くな」
 ラファエルは眉間に皺を寄せ、少し湿った布巾をヨーフィ目がけて投げつけた。それはヨーフィの頭にべたっとヒットし、泣き声は止む。
「もう、ラファさん、こんな時は慰めなきゃ」
「こいつが馬鹿だっただけだろ」
「う、うううぅ……穴があったら入りたい…」
 布巾を頭に乗せたまますすり泣くヨーフィの肩を、アザゼルがぽんぽんと叩いてあやした。ほらほら、ラファさんも。というアザゼルからの視線に、ラファエルはため息をついて立ち上がる。
「二人とも、夕飯まだ食べてないんだろう。作ってやるから待ってろ」
「ラファさんの手作り? うわぁ、僕初めて」
「ヨーフィ、これは貰っとくぞ。アザゼル、その紙捨てておけ」
「はーい」
 カチャカチャと聞こえ始めた調理の音、二人の会話。顔を伏せてじっとしていたヨーフィだったが、なんとなく疎外感を覚え、ちらっと顔を上げた。すると、移動していたラファエルと目が合って。
「少しは手伝え、馬鹿が」
 鋭い言葉と視線を突き刺し、ラファエルはさっさと料理の続きに戻った。再び俯きそうだったヨーフィに、アザゼルは素早く近づく。顔を寄せて、そっと囁いた。
「ラファさん、ヨーフィくんの大好きなミルクたっぷりクリームシチュー作ってるよ。プレゼント、嬉しかったんだよ、きっと」
 そして、こっそり聞いてきた。
「プレゼントって、なんだったの? 僕、まだ見てなかったんだけど」

 ヨーフィは漂い始めたシチューの匂いを嗅いで、涙を拭いた。それから少しだけ考え込んで、たいした物じゃないと前置きしてから顔を上げた。
「オルゴール!」
 その顔はほころんでいて、元気になったな、そうアザゼルは安堵して笑顔を返した。



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