【パパはだーれ?】


4.暴走

女は言った。どうして、私のどこがいけないの?
男は答える。始めから、遊びのつもりだったんだ。
女は去っていく男を引きとめられない。ただそっと、自分のお腹をさするだけ。
この子のこと、言えなかったな。
女は一筋涙を流す。しかし、諦めていなかった。
いつか、いつの日かあなたの妻になる。
そして、計画が始まった
「と、言うことで、私は狙われているのよ!」
「え、今の完全な創作じゃないの?」
 レヴァイアは目をぱちくりさせて、真剣な表情のルシフェルを見た。いきなり城へ駆けこんできたと思ったら、開口一番「命が狙われてる!」だ。詳しく訳を聞こうとお茶を出してみれば、男と女のドロドロ話。
「全部本当だってば。だって隠し子が現れたのよ?」
 そう言うルシフェルの目は笑っていない。なぜか『カインの愛人と隠し子が私の命を狙っている』と信じているらしかった。
 しかし、勘違いだろうなあ、と思ってもレヴァイアは口に出さなかった。小さい頃から知っているのだ。ここで頭っから否定しては、もっとややこしいことになる。
 女の子が城に迷い込んだというのは本当だろうから、レヴァイアは至極真っ当な意見を言った。
「まあ、なにはともあれ親見つけてやらなきゃな」
「そうね、やっぱりまずは敵を知らなきゃ。そして、向こうの計画を根底からひっくり返してやるわ!」
「いや、まあ、うん。あんま先走んな」
 どうどう、とルシフェルを宥め、レヴァイアは茶を勧めた。大人しくルシフェルはお茶を飲む。
(母親と女の子が再会すればすべて丸くおさまるだろうし、なんとかルシフェルが変なことしないように見てなきゃいけねーな)
 そう思って、レヴァイアは遠くを見つめた。思い込みの激しさはリリス、一人突っ走っていく猪突猛進ぶりはサタンから遺伝したのだろう。いやもう本当、あの二人は大変だった。それが三人になった時はさらに大変だった。今はルシフェル一人だからまだ対応できるが、あの二人の娘である。用心していなければ。
(マジであれは大変だったなぁ。そうあれはルーシーが五歳の時、サタンとリリスが――)
「ねえ、そういえばバアルは?」
 茶を飲んで落ち着いたルシフェルは、きょろきょろと辺りを見回して尋ねた。ふっと我に返ったレヴァイアは、小さく頭を振ってから答える。
「ああ、バアルとなら買い物。服新調するんだと。ミカエルは荷物持ちで、俺は留守番」
「レヴァくんの方が力持ちなのに、留守番?」
「いやー、最近食材衝動買いしちゃうんだよ。ほら、料理本買っちゃってさー」
「ああ、いろんなのチャレンジしてるよね。私アレ好きだな、ほら、アスパラとベーコンの」
「あれか。じゃ、また作ってやるよ。俺的にはカボチャの冷水スープ、気に入ってるんだ」
「それも好き!」
 始めの荒んだ決意はどこへやら。ルシフェルとレヴァイアの穏やかな会話は、なんだかんだと一時間以上続いた



 中途半端だった掃除を適当なところできりをつけ、双子はカインに全面協力をする旨を伝えた。目の前で修羅場が繰り広げられたのだ。しかも、デイズの一言がきっかけである。バズーも責任を感じているようだった。
 カインはそんな二人を見て、怒らずに頷いただけだった。厄介なことになったと目は物憂げであったが、どうにかしなければと頭を切り替えていた。
「まずは母親捜しだ。ルーシーのことは放っとけ。ミミのことを考えろ」
 ミミはきょとん、と三人を見上げていた。
「ミミを母親に返す。それが最優先事項だ」
 双子は頷く。
「悪いと思ってんなら行動で示せ。いいな?」
「「イエッサー!!」」
 カイン、デイズ、バズーの三人はミミを連れて街へ出かけて行った
 街に着いてからの双子の行動は素早いものだった。城の主婦&主夫として働いている双子はご近所付き合いもうまく、街の奥様方や店の主人とも馴染みで、二人が尋ねればみんなすぐに答えてくれる。
「ミミちゃんって子のお母さん捜してるんだけど、知らない?」
 情報は次々と集まった。
 カインはミミと一緒に待っているだけでよかった。待っていると言ってもただボーっと突っ立っている訳もいかないので、周りから怪しまれない(幼女を狙う不審者でなく、一緒に人を待っていると思われる)ように、会話をしたり売店でクレープを買ったりした。依然、パパとミミはカインを呼んだが、気を使っているのか小声だったため、カインもそれ以上注意はしなかった。
「パパ」
「どした」
「あのね、ミミね、がまんしてるの」
「? おう」
「でもね、もうがまんできないの」
「なにが?」
「……おトイレいきたい」
「!? え、ちょ、待て、待てよ、今すぐか?」
「うん」
「待て! もう少し我慢してろ! トイレ…トイレ!?」
 多少のハプニングはあったものの、二人は仲よく聞き込みが終わるのを待った。そして二時間ほどが経った時、双子は急き込んできたのである。
「カインさん! わかりましたぁ!!」
 大声で叫んだのはバズーだった。
「ミミちゃんのお母さんはリサさんです! パートしてるスーパーに忘れ物を取りに行った時、ミミちゃんとはぐれたそうです!」
 詳細を述べたのはデイズだ。カインはその報告を聞いて手を叩いた。
「よくやった! で、肝心の母親はどうした?」
 デイズは息を落ちつけてからカインを見た。
「スーパーや広場を捜したけれど見つからず、一旦家に帰ったそうです。パートの同僚さんが教えてくれました。だいぶ前なので、今はまたここらでミミちゃん捜してるかもですが、一回家を訪ねてみるといいと思います」
「よし、さっそく行こう」
 カインは拳を握りしめた。バズーは屈みこみ、ミミと目線を合わせる。
「ミミちゃん、ママに会えるよ。一緒にお家に帰ろうね!」
 その時だった。
――ピンポンパンポーン
『女帝のルシフェルです! ただいま、城でミミちゃんという女の子の迷子を預かっています。ご家族の方は至急、噴水広場に来てください。私もこれから行きます。絶対来てください。逃げんじゃな――むぐぐっ!』
『バカっ、何喧嘩腰になってんだ。えーと、こほん。魔王、レヴァイアです。繰り返しお伝えします。ミミちゃんという迷子を預かってます。ご家族の方は噴水広場においでください』
――ピンポンパンポーン
 スピーカーから流れたのは、ルシフェルとレヴァイアの声であった。バズーは青ざめた顔で呟く。
「一騎討ちする気だ……!」
 残念ながら、誰も否定できなかった。そんな中、焦りを含んだ声でカインが叫ぶ。
「噴水広場でルーシーを止める! 全員急げ!」
 ミミを抱え、カインを先頭に四人は噴水広場に向かった。



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