【浦島ラファさん】
3.乙姫さまが歓迎してくれたようです
扉の前に立つ二人は、とても小さく見えました。背の高いラファさんも小さく見えるほど、竜宮城は大きかったのです。
「乙姫さまー! いじめっ子から(一応)助けてくれた浦島ラファ兄連れて来ましたー!」
「それはお礼をしなきゃだね」
どこからともなく聞こえてきた声と共に、巨大な扉がゆっくりと開きます。現れたのは、綺麗な服を着てマスクで顔を隠している乙姫さまでした。
「アザ………いや、よく役を引き受けたな」
ラファさんの第一声はそれでした。
「えー、似合いませんか?」
乙姫さまはくるんっと回りました。色鮮やかな布が綺麗に舞います。
「結構似合ってるよ。ね、ラファ兄」
「…ああ。見れなくもない」
「それ褒めてます? あ、とりあえず中へどうぞ」
世間話をしながら、三人は竜宮城に入って行きました。そう時間もかからずに、応接室に着きます。
「えーでは浦島ラファさん、お礼にごちそうを用意しました。食べてください」
そこには、テーブルいっぱいに豪華な食事が並んでいました。
「この短時間でどうやって用意した?」
「気にしちゃいけません。仕様です」
ラファさんは席につきました。すると、音楽と共に魚たちの舞が始まります。
「楽しんでくださいね。あ、ヨーフィくん、その皿取って」
「アザゼル乙姫ー、そっちの醤油取って」
二人はラファさんを挟むように座り、食事の準備を始めました。それを見て、ラファさんは尋ねます。
「お前たちも食べるのか」
「もちろんですよ。こんな量あるんですから、食べるの手伝います。はい、いただきます」
「いただきまーす。あ、ラファ兄、お茶こっちね」
「ああ。いただきます」
こうして、時間を忘れそうになるほど素晴らしい時間が始まりました。耳に入る繊細な音楽、舌で味わうごちそう、目の前の美しい舞。どれも最高のものばかりです。
ラファさんは前菜を食べ終わってから箸を置いて、舞を眺めました。まだまだ時間はたっぷりあります。そうがっつくことはないと思ったのです。
赤、青、緑、黄。様々な衣装を身にまとった魚たちは、優美に舞っています。天使たちもエキストラ大変だな、とラファさんは思いましたが口にはしませんでした。分別のある天使、それがラファさんです。
「よくできてる、綺麗だ………ん?」
ふと、視界の隅に見覚えのある顔を見つけました。まさか。目をこすってもう一度凝視します。すると、視線に気がついたのか、舞を披露している魚の一人がテヘ♪と舌を出しました。
「なっ…!?」
ガタガダッとラファさんは立ち上がりました。両脇の二人は、いきなりのことに驚きます。
「ラファ兄、どうしたの!」
ヨーフィの質問に答えずに、ラファさんのしなやかな指がビシッとある人物を指しました。
「なにをしているっ!」
音楽が止まり、舞も止まりました。どうしたんだと、その場にいた全員が戸惑います。指された人物だけは、茶目っ気たっぷりにウインクしました。
「バレちゃった。目ざといねぇ、あなた」
長い金髪、高い背丈、金の瞳。どことなくラファさんに似ているような彼は、続けます。
「いやあ、出ないでいようと思ったんですけど、やっぱ面白そうだなーと思ってつい」
「だからって、よりによってこの場面に出てくる奴があるか!」
二人のやり取りに乙姫さま、もといアザゼルが首を傾げました。
「ラファさん、この方誰です? 随分親しいようですけど」
こんな風にラファさんとやり取りできる人物はあまりいません。アザゼルの疑問も当然です。
ラファさんは、真面目に答えました。
「赤の他人だ」
即答でした。
「あ、ひどい! 私はバ……バジルです! ラファとは深い仲ですよ」
バジルは胸を張りました。それに嫌そうな視線をラファさんは送ります。
「へぇ、ラファさん、僕たち以外に友達いたんですね」
「おい」
ラファさんはジロッとアザゼルを見ました。腕を組んで、バジルはアザゼルに頷きます。
「そうなんですよねぇ。目つき悪いし口も悪いし、寄り付く人いなくって。友達なんて、とてもとても」
でも、と続けます。
「いい友達を持ってるみたいじゃないですか。安心しました」
そうして、アザゼルとヨーフィを見ます。ほんわかした雰囲気が、辺りを包みました。
しかし、それにヒビを入れるような悲痛な声が上がります。
「……ラファ兄……一番だって言ったじゃん」
「は?」
ラファさんは、眉を寄せました。ヨーフィは声を大にします。
「一番仲良いのは俺じゃなかったの!? あの時のあの言葉は!? 俺が一番って言ったじゃん! なのに新しい友達!?」
「なに訳わからんことを言ってんだ! あの時のあの言葉?」
「ほらほら俺が草笛挑戦してた時! ラファ兄に聞いたじゃん。一番仲良いの俺だよねって!」
「あれはお前が言わせたんだろ。言え言えうるさく付きまとって」
「えー、違うし!」
やいのやいのと言い合いが始まって、アザゼルはバジルに近づいた。
「ヨーフィくん、ラファさんのこと大好きだから」
「ですねぇ。あれだけ愛されて幸せ者じゃないですか」
「突っ張った態度でも、内心嬉しいんでしょうね」
「そうです、そうです。私が言うから間違いありません」
「ああ、で、さっきから思ってたんですけど、バジルさんって」
アザゼルの視線がバジルに向きます。何かを悟ったのか、バジルは手を叩きました。
「さーて、修羅場に巻き込まれるのはごめんなので、そろそろ帰りますね。お世話様でした、さようならー!」
風のように去って行ったバジルを追い掛けることはしないで、アザゼルは呟きました。
「おもしろい人だなあ、バアルさんって」
なんだかんだと勘の鋭いアザゼルです。
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