【浦島ラファさん】


5.浦島さんは聞き込みをしました

「ラファ兄、俺帰るけど大丈夫? 一人でちゃんとやれる? 台本通りやれる??」
 無事、浦島ラファさんを浜辺に送り届けたカメのヨーフィは言いました。ちょくちょくと台本を無視するラファさんを心配しているのです。
「もうここまで来たら最後までしっかりやるさ。そんな顔するな」
 ぽんぽん、とヨーフィの頭を撫でてから、ぐいっと背中を押します。
「ほれ帰れ。お前がいたら先に進めん」
「本当に、ほんっとーに大丈夫!? なんなら俺の台本貸そうか?」
「いいから行け!」
 何度も何度も振り返りながら、ヨーフィは竜宮城へ帰って行きました。一人になったラファさんは、ふう、と息をつきます。
「確か次は家に帰って……」
 ぶつぶつとこれからの展開を思い出しながら、歩き始めます。家にはすぐに着きました。
「母でない人物が暮らしていることに驚いてから……」
 ピンポーンとインターホンを押します。数秒しても人が出てくる気配はありません。ラファさんはもう一度インターホンを押しました。家の奥の方でガタっと音がします。続いて、こそこそと話声が聞こえました。何を言っているかまではわかりません。
 ラファさんはちょこっとイラついて、今度は二回連続でインターホンを押しました。ピンポンピンポン。そして、だだだっと急ぐような足音がします。
「どどどどどちら様で、ででしょうかっ!!」
 出できたのは、なぜか怯えたようにどもっているオッドアイの少女でした。視線がふよふよ泳いでいます。
「ここは浦島家だと思ったんだが」
 早く終わらせたいとばかりに、ラファさんの口調は怖いほどに平坦です。加えて、いささか早口になっています。少女、ルシフェルは豪速で頭を下げました。
「すみません! 今は私の家です、すみません!! すみません!!!」
「浦島家はどこに」
 ラファさんの質問も届きません。
「なんとお詫びすればいいものか! ああそうだ、みかん! 食べかけですがみかんならなんとかコタツの上に――あだっ」
 ごつん、とルシフェルの頭に拳が降ってきました。うずくまったルシフェルに、殴った人物は言いました。
「怖がりすぎだバカ。セリフ言うだけだろが」
 真っ白な髪と真っ赤な瞳の彼、カインは呆れたように続けます。
「覚えてないわけじゃねーだろ」
 涙目になりながら、ルシフェルは立ち上がりました。
「も、もちろん覚えたわよ!」
「なら言ってみろ」
「え、えっとー、浦島なんて知らな、だいぶ前にそんな名前、100年前? 50年前? んーと、浦島はー」
 ばしんっと今度は背中を叩かれます。
「覚えてねーじゃねーか。ほら、台本。見ながらでいいから読め」
 ルシフェルは台本も受け取り、自分のページを探しました。疲れたのか、ラファさんは一切口を挟みません。頭の中では今晩のおかずについて考えていました。
「あ、あった!」
「早く読め、私も忙しいんだ」
「はい! 今読みますすぐ読みます!」
 ルシフェルは深呼吸をしてから読み始めました。
「浦島なんて知らないわよ。ああでも、50年くらい前、旦那さん亡くした母子がここに暮らしてたって聞いたっけ。確かそれが浦島さん? 息子さんも漁に行ったっきり帰ってこなくて、残された母さんは失意の底で亡くなったって」
 読めた!とルシフェルは満足そうな顔をしました。そして、何に気がついたのか、声を上げます。
「あ! カイン、ここここ! 私、若夫婦の妻だって! カイン夫だって!」
「役な。それ役だからな」
「本当にしてみない? 甲斐甲斐しいわよ、新妻のワ・タ・シvv」
「う、急に吐き気が……」
「どういうこったコラァ!」
 ふっと、二人は玄関を見ました。そこにいたはずのラファさんの姿はどこにもありません。
「え? あれ? さっきまで」
 セリフを聞いた途端去って行ったラファさんに、二人とも気付かなかったようです。



<<< BACK * HOME * NEXT >>>

* 破葬神話INDEX *