【白雪姫ルシフェル】


5.割れた鏡

 豪華な謁見部屋にはおいしそうな匂いが漂っていました。大理石の床に立つ大きなテーブル。その上の鍋から湯気がもうもうとたっています。
 バアルとレヴァイアはモツ鍋を堪能していました。
「いやーレヴァくんの料理はいつも美味しいですねぇ」
 美しいドレスを美しく着たまま、バアルは焼酎をぐいっとあおります。ドレスと焼酎、不釣り合いですが何故か様になっていました。
「一応、女王として白雪姫の臓物を恐ろしく食べる場面ですが、六本足豚が出てきたらそうも言ってられません。こんな高級食材が食べられるなんて幸運ですよ」
「俺もまさかあそこで見つけるとは思わなかった。あー、やっぱうまいわー」
 周りには空になった酒瓶がいくつも転がっています。二人はだいぶ飲んでいるようです。
「ああーっと、バアル、そろそろ時間じゃね?」
 箸を置いてレヴァイアが言いました。バアルは立ち上がります。
「そうですね、食べましたからね、ぼちぼち鏡の時間です」
「鏡の部屋行かないと」
「その必要はありません。ここに用意してあります」
 ガラガラガラ。バアルは台車を持ってきました。台車には鏡が乗っています。美味しいモツ鍋で機嫌の直ったバアルは、もうサタンとリリスの愚痴は言いませんでした。
「あれ? ヒビ入ってね?」
「まあ、いろいろあって。でもまだ使えますよ」
 ガラガラガラ。その時、台車に転がっていた瓶がぶつかりました。
――コンッ、グラッ
 固定されてなかった鏡は傾きます。
――ガッシャーン
「割れたー!?」
「わわっ、すみません!」
 バアルは慌てて鏡を起こしました。しかし、すでに鏡は枠だけになっていました。床に鏡の破片が散らばっています。
「何事だー! うおっ鏡がない!」
「あらあら、枠だけになってるわ」
 鏡の枠から声がしました。サタンとリリスの声です。
「あ、そっちが本体なんだ」
「おっその声はレヴァか。一体何が起きたんだよ」
 バアルは申し訳無さそうに言いました。
「すみません、サタン、リリス。私が鏡割ってしまいました」
「えー、せっかく鏡の精の衣装作ったのに。お披露目できないじゃない」
 ぷんぷん怒るリリスをすぐにサタンが宥めます。
「割っちまったのはしゃーない。それにリリス、俺は割れて良かったとも思ってる」
「どうして?」
「美しいお前を誰にも見せたくないから、さ…」
「あなた…」
 そこにレヴァイアがわって入りました。
「はいはーい、いちゃつき禁止ー! 見えないけど自重してくださーい!」
 そして、いつの間にか鏡の破片を掃除していたバアルが顔を上げます。
「あ、終わりました? じゃ、枠だけでも進められますし、続きいきますか」
 パッパッとバアルはドレスを整えます。
「では。鏡よ鏡、世界一可愛いのは誰ですか?」
「え、『美しい』じゃないの?」
 レヴァイアの疑問は無視されました。
「世界一可愛いのは、小人の家でカレー食べてるルーシーしかいない!」
「なにー白雪姫がまだ生きているだとー猟師、貴様裏切ったなー」
「命ばかりはお助けをー」
 棒読みのセリフ合戦は続いていきました。


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