【白雪姫ルシフェル】


8.王子様

 ガラスの棺を囲むようにして小人が立っていました。その内の一人が挙手をします。
「ミカエルが城に行ったので代わりに小人役をやるレヴァイアです! よろしく!」
「「よろしくお願いします!」」
 双子は声を揃えて頭を下げました。その隣のヨーフィはツーンとそっぽを向いています。
「おーい、チビッコ天使。ノリ悪くね? つかラファは?」
「チビッコ言うな! ラファ兄は向こうで休んでるよ!」
 ヨーフィはビシッと向こうを指しました。レヴァイアは驚きます。
「え、具合悪いの? 起きた時『勝手に進める』ってメモ置いてあったからお礼言おうと思ったのに」
「思いのほかこの劇が長引いててラファ兄機嫌悪いから近づかない方がいい。それより早く続きやれよ!」
 声を荒げるヨーフィにバズーが言いました。
「でもさ、やることないぜ」
「そうね、王子様待ちだものね。いつ来るのかしら、カインさん」
 デイズは腕を組んでぐるっと見回しました。誰かが来る気配はありません。
「あとでお礼の品…料理でもやるかなぁ。でも、ラファの好物なんだっけ……」
 ぶつぶつ呟くレヴァイアの耳に、ずるずると何かを引きずる音が聞こえました。
「なあ、これ何の音だ?」
 レヴァイアは三人に聞きました。
「え、音? 俺には何も…」
「待ってバズー、ほらあっちから誰か……あっ白い服!」
 デイズが示した方向に人影が見えました。レヴァイアは大きく手を振ります。
「カインかあ!?」
 呼びかけに返事はありません。ハッとヨーフィは気づきました。
「あ、アザゼル!?」
「ヨーフィくーん」
 のんびりした声に小人全員が目を見開きました。よくよく見ると白い服と金の髪とマスク、明らかにアザゼルです。
「お前何役!? なんで私服!? 何引きずってんの!?」
 ヨーフィは矢継ぎ早に質問しました。アザゼルは近くまで来ると足を止めます。そこでやっと引きずられていたのが縄でぐるぐる巻きにされた布団だとわかりました。両端から白い頭と足が飛び出しています。
「キャー! カインさーん!?」
「マジだ! カインさんだ! 簀巻きにされてる!」
「カイン! なにがあったのー!?」
「…うぅ……助けて…」
 簀巻きにされた王子様カインの周りに小人が集まりました。
「マジで簀巻きだ…! アザゼル!」
「はーい。僕、白馬役なんだけど、王子様が逃げるので衣装も着ないで頑張って捕まえました」
「え? 逃げる?」
 縄をほどいていたバズーが聞き返しました。アザゼルが慌てます。
「せっかく捕まえたのに…」
「隙ありっ!」
 布団の中からカインが飛び出しました。王子様マントをはためかせて一目散に逃げていきます。
「キスなんてできるか! 絶対やらねーかんなぁ!」
 そう叫んでカインは遠のいていきます。このままでは白雪姫が目覚めません。
「そうはいくかっ!」
 動いたのはレヴァイアでした。鍛え上げられた足で瞬く間に距離を詰めていきます。そしてマントを掴みました。
「捕まえたっ!」
「ぐぇっ」
 歓声をあげる双子の横でヨーフィはアザゼルを見上げました。
「お前、あれ捕まえて簀巻きにしたの? すごくね?」
「それほどでも。結構楽しかったよ、鬼ごっこ」
 カインは諦めたのか素直に歩いてきました。その背中をレヴァイアが叩きます。
「だーいじょうぶ! ルーシー目ぇ閉じてるし、キスする振りでもいけるって。その後、めっちゃ怒られると思うけど」
「……どっちも嫌だ…」
 しかし、カインはガラスの棺の前に立って表情を引き締めました。もう逃げられません。
「……っ! 男カイン、腹くくってやらぁ!」
 棺のフタが外されました。


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