【白雪姫ルシフェル】
9.目覚め
フタが開いた音でルシフェルは熟睡から覚めました。やばい、そうだった、白雪姫だった。ルシフェルは手に持ったままだったかじりかけのリンゴをぎゅっと強く握りました。フタが開いたということは王子様カインが来たということです。ルシフェルの心臓は一気にドキドキしはじめました。
棺に入る時に化粧も直したし変なところないわよね。ルシフェルは寝顔を保つのが大変でした。叫びたくなります。恥ずかしくて嬉しくて、飛び跳ねたくなります。早く来いっ、いや待ってまだ駄目。心はゆらゆらして止まりません。
その時、首の下に手が入りました。ルシフェルはビクッとしました。いやだ、そんなガッチリ固定なんてどんな濃厚なキスをしようっていうの。しかし、膝の裏にも腕が入る感触があり、さすがにルシフェルは何か変だと思いました。その瞬間。
「ぎゃあ!」
体が持ち上げられて、ルシフェルは思わず目を開けました。間近にカインの顔があります。
「きゃー! なに!? なんなの!?」
カインにお姫様だっこされてるとわかると、ルシフェルはさらに混乱しました。カインは暴れるルシフェルを持ったまま早口で言いました。
「おいっリンゴ出せっリンゴ!」
「リンゴ!?」
ポロッと持っていたリンゴが地面に落ちました。あ、とルシフェルが言うと同時にカインが叫びます。
「レヴァ! 『白雪姫からリンゴが出て』キスしなくても『目覚めた』ぞ!」
レヴァイアは驚きました。
「そうきたか! キスしたくないから、そっちバージョンに変更したか!」
「これはアリだろ?」
「うん、ルーシーには悪いけどアリだわ。それも白雪姫だし」
「っしゃあ!」
ルシフェルを下ろしてカインはガッツポーズをしました。呆然とするルシフェルにレヴァイアはわかりやすく説明します。ドキドキ待っていた目覚めのキスはないのだと理解したルシフェルは地団駄を踏みました。
「アタシのときめきを返せぇ!」
「ふふん、そうは言うがなルーシー。自業自得でもあるんだぜ」
カインはルシフェルを見下ろしました。
「白雪姫を勉強しろとお前が押しつけてきた大量の本の中にこの『別バージョン』が載ってて、俺はそれを思い出したにすぎないのさ!」
「な、なんだってー!?」
ルシフェルは崩れ落ちました。その肩をレヴァイアが優しく叩きます。
「ルーシー、ドンマイ!」
「うわーん!」
そこにバズーが近づきました。
「レヴァさーん、天使組帰りましたー」
「ありゃ、帰っちゃったか。まあ、いいや。もう終わるし」
デイズはパタパタとルシフェルに駆け寄り、立たせます。
「ほら白雪姫、まだ続きあるんだから。カインさーん、続きやりますよー」
カインは重圧から解放されたからか晴れ晴れとした笑顔で応じました。
「よっしゃ、パッと進めて終わらせるか。台詞言うだけだし」
そして、カインはルシフェルに跪きます。
「白雪姫ー、結婚してくださいー」
「……むぅ…」
ルシフェルの機嫌はまだ直ってないようです。デイズがこらっと叱りました。
「キスはなかったけど、お姫様だっこされた上に跪いてプロポーズよ? 十分じゃないの」
「!」
ルシフェルは衝撃を受けました。確かに、王子様、いいえカインにお姫様だっこされてカインにプロポーズされているのです。ルシフェルは再びドキドキしました。あのカインが!
「結婚しまっす! アタシを幸せにしてちょうだい!」
ルシフェルはカインに抱きつきました。
「おいっ、劇だから! これ劇だから!」
二人の周りに立つ小人たちは微笑みながら拍手しました。そして、足音と共に拍手が増えました。
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