【ミカエルの家出】
参考:帰ってきた、貴方から破葬メンバーに質問「破葬キャラ回答篇第一弾」Q07
01.近づきたくて
穏やかな昼下がり、ルンルンとミカエルは自室で服を並べていた。前々から服屋に頼んでいたオーダーメードのセットが届いたのだ。服以外にも靴やアクセサリーもすべて揃えた。デザイン、生地、色。すべてを吟味し、納得いくまで話し合いをした末に出来上がった逸品たち。心躍らぬはずがない。ドキドキと胸をときめかせながらワンセット選び、袖を通していく。姿見の前に立てば、そこには何度も夢想した理想の姿が映っていた。
「す・て・き…!」
頬に手を当て喜びを実感すること数分。興奮冷めやらぬままに次の服に着替えようとして手を伸ばした時、ノックの音が聞こえた。
「ミカエル、ちょっとお使い行ってきてほしいんですけど、今いいですか?」
「え、あっ、ちょっと待っ!」
がちゃり。ミカエルの慌てた声は無視され、ずかずかとバアルが入ってくる。その視線は手に持った書類に落ちていた。そのままミカエルの状態も知らずに続ける。
「今度の一階の空き部屋改修工事のことでして……え?」
ふと顔を上げたバアルは固まっていたミカエルと目が合った。慌てたようなその顔を見た後、見慣れぬ暗色の服装に視線をずらす。しっかりと着こまれたその服。普段ならば「ああ、新しい服買ったんですね」の一言で終わりだ。しかし、バアルにはその服に見覚えがあった。
光に輝く黒いレザーパンツ、キラキラと宝石がはめ込まれたバックル、ベルトが巻き付いた厚底ブーツ、黒い羽根がふんだんにあしらわれた足首まであるコート。Vネックのタンクトップこそ見たことないと断言できたが首元に光る豪奢なネックレスは知っていた。よーく知っていた。
「ミカエル、それ、なんですか?」
「え、ええっと……」
うろうろと視線をさまよわせたミカエルは何かを覚悟したのかぎゅっと拳を握った。
「本当はここぞと言う時にサプライズ発表したかったんですが、わかりました。言います」
そうしてどん!と胸を張る。
「バアルさんとお揃いの服作りました!!」
「即刻やめろ!」
◇
頬杖をついて料理雑誌を見ていたレヴァイアは微かに聞こえた大声に顔を上げた。城に住まうは三人。自分を除けば残り二人。必然的にバアルとミカエルが言い合っていることになる。レヴァイアは首を傾げた。どんなにミカエルが素っ頓狂なことを言っても冷笑しつつあしらうのがバアルである。それが声を荒げるとは尋常ではない。
「でもあいつらが喧嘩? うーん」
格下ミカエルが頭を下げて終了する様しか想像できない。しかし考えてもわからないなら仕方ないのだ。百聞は一見に如かず。レヴァイアはすっくと立ちあがり駆け出した。近づくにつれて声は明瞭になっていく。そして両者が熱を持った言葉をぶつけあっていることがよくわかった。
「はいはいストーップ!」
「ああっ、レヴァくん良いところに!」
「わーん! レヴァ先輩も説得してください!」
駆け込んだ室内で同時に二人に詰め寄られたレヴァイアは少しよろけたが、立ち直る。そうして二人の肩をぽんぽん叩いた。
「よーし、冷静にな。で、なんなの?」
「聞いてください。こいつのトチ狂った行動を!」
「僕はバアルさんに近づきたくて! だからお揃いなんです! いいじゃないですか!」
「よくないわボケェ! 誰が野郎とペアルックするか!」
「リスペクト! バアルさんのリスペクト!」
「言い方変えりゃあ良いってもんじゃねーぞ!」
「どーどー。二人ともどーどー」
説明なんて気の利いたものはこの場になかったがレヴァイアは理解した。まあミカエルの真っ黒い服装を見れば見当もつく。バアルの数あるファッションの中の一つであるそれは、バアル自身も結構気に入っているものだ。本当ならば上半身は素肌にコートが正しいのだがミカエルには高等技術だったらしくタンクトップを着ている。けどそんな一枚着てるか着てないかの差など些細なものだ。誰が見たって今のミカエルは「バアルと同じ格好してる」と思われる姿なのである。
そりゃあバアルも嫌がるよなあ、なんてのんきなことを考えていると二人の口論は再熱していた。
「そもそもあなたに私のようなファッションは似合いませんよ!」
「それは若干自覚ある……けど、着たいんだもん!」
「むーりーでーすー。諦めなさい!」
「やだぁ!」
レヴァイアは二人の間に割って入る。このまま放っておけば城の一部が壊れること間違いなしだ。仲直りのさせ方はわからないがとりあえず言葉を挟んで二人をクールダウンさせなければ。これは俺にしかできないことなんだ。あれ、今の俺めっちゃかっこよくない?
「似合う似合わないで言ったら割と似合っちゃうと思うぜ」
「本当ですか!?」
「え、本気で言ってます? 嘘ですよね?」
うまく二人の視線を自分に集めたレヴァイアはこのまま俺の言葉に耳を傾けな!と言わんばかりに口を開く。
「だってお前ら女顔って共通点あるじゃん。バアルに似合うならミカエルもそれなりに見れる格好に――」
だから妥協点見つけて行こうぜ。とまあ言い合いを話し合いに変えようとしたレヴァイアは、不意に訪れた静寂に驚き、思わず言葉の途中で口をつぐむ。あれっと思ってももう遅い。レヴァイアは地雷を素っ裸で踏み抜いてしまった。
金色とスカイブルーの瞳がレヴァイアを射抜く。そこに温度は一切なかった。ゆらりと二人は一歩進む。
「「誰が女顔だァ!!」」
鳩尾と頬に拳は容赦なく叩き込まれ、レヴァイアは城外に吹っ飛んだ。
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