【03:闇夜の微笑】



「私は人選を誤ったのか……」
 ルシフェルは誰も聞き取れないであろう小声で呟き、頼り甲斐ある兄貴分バアルの城へ向かって歩いていた。
 隣には先程『拾った』カインが面倒臭そうにダラダラとついてきている。「私はこの魔界を治める女帝だ」と教えた途端カインに「そんなバカな」と大笑いをされたため、ルシフェルはイライラしていた。彼の見せた態度は強い精神力から来るものではなく、なんというか単に根っから口が悪いだけのような気がしてきてならない。いや、きっとそうだ。
 よくよく考えてみなくても分かることである。彼は長い年月を真っ暗闇の中に投獄されていた罪人。礼儀を学ぶ機会などありもしなかったはず。
 何はともあれバアルの城はもうすぐだ。とりあえず新しい仲間が増えたということになるわけだ、自分の兄代わりであり今や親代わりでもあるバアルとレヴァイアの二人に彼を紹介しなければならない。
 ――万が一バアルとレヴァイアにさえも生意気な態度をとったら、決定だ。単に彼は、口が悪いのだ。
 牢獄の呪縛から解かれたためか今は身体が少しふっくらして健康そうに見えるカインだが、つい先ほど牢獄から外に出た時には「眩しいっ!」と叫んで暫く目を押さえてその場にしゃがみこんでみせた。あの真っ暗な牢獄から出て何千年ぶりに外の光を見たためである。
 この程度の光がどれほど彼の目には眩しかったのだろう、ルシフェルには想像が出来ない。だが、呻き声を漏らし顔を歪めて歯を食い縛り両手のひらで目を強く押さえる彼の悲痛な姿は、ルシフェルの胸を痛めるに充分であった。
 そう、彼の外界に出ての第一声は「眩しい」だった。
 ルシフェルはもっと、違う言葉を想像していた。もっと単純に、彼が喜んでくれる姿を思い浮かべていた。なのに……。上手くは、いかないものだ。
 けれども最初こそ足腰が弱っていたのかあの長い階段を登るにも精一杯で足取りフラフラしていた彼だが、今や光にも歩くことにも慣れたらしく余裕で景色をチロチロ見やりながら歩いている。それでもかなり気怠そうな歩き方ではあるが、ひょっとしたらこれは根っからなのかもしれない。なにせガラの悪い男だ。しかしその景色を見つめる赤い瞳は好奇心に輝いている。人間だったというのだから魔界の景色は物珍しいものばかりなのだろう。それでなくとも数千年振りに見る外の景色だ。一応なにか感じるものがあるのかもしれない。
(赤い月。赤い空。荒れ果てた大地。それでも根を張って咲く奇怪な花たち。カインはこれ全部初めて見るんだろうな〜。しっかしタフなヤツ。さっきまでショボくれた仙人みたいな姿していた男とは思えない変わり様だわ……)
 ルシフェルはブツブツ考えながら足元だけ見ながら歩いた。
 釈放の際に歓喜の態度は表してくれなかったが、彼のさり気ない行動はやはり長年の牢獄生活を察するに余りある。長い年月を生きてきたというのに魔界の女帝であるルシフェルのことさえも知らなかったのだ。それは彼が外界から完全に切り離された場所にいたことを物語っている。
 一体、彼はあの真っ暗な牢獄の中でどう長い年月を過ごしてきたのだろう。あの、外界からたった一人、切り離された闇一色の世界で……。
 ルシフェルはまた少し胸が痛んだ。外を見たらいい加減こんな無愛想な男でも素直に喜びを態度に表してくれると思った。しかし彼は眩しいと叫んで暫く苦悶しただけ……。一体なにをどうしたら彼は喜んでくれるのか。
「おい、ルーシー!」
 唐突にカインが叫んだ。少し間を置いてからその言葉が自分を指していると気付き、ルシフェルは勢い良く振り向いた。
「ル、ルーシー!? アンタいきなり人に馴れ馴れしくアダ名つけんなよ!」
「あぁ? テメーの名前長くてめんどいんだよ。いいじゃん、俺アンタの側近だぜ? 気軽に呼び合えるってのは素晴らしいことじゃん」
 よく分からない理屈を言いながらカインは意地悪そうな笑みを浮かべた。
「メンドい名前ってなによ失礼ね崇高な名前なのよルシフェルって! ところで、なんだよ。いきなり呼びやがって!」
「ああ。あのさ〜。テクテク歩いて何処行くんだよ? テメーの家、あっちじゃねぇの?」
 とことんダルそうな表情を浮かべてカインはある方向を指差した。
 彼が指差した方向には遠くにルシフェルの城が「此処、偉い人の城です」とばかりに建っているのが見える。目立つ大きな城だけあって直感でそこがルシフェルの家だと分かったようだ。しかしまず向かう場所はそこではない。その更に先である。
「そうだけどさ。アンタ新入りでしょ。だからこれから魔界を仕切ってる偉〜い魔王様二人にアンタを紹介しなきゃいけないの。そんなわけでまずその魔王様が住む城に行かなきゃいけないの。分かった? 分かったら、ハイ! 四の五の言わずにアタシの後ろを歩く!」
「あ〜、はいはい。そういうことね」
 またも面倒くさそうに返事するカインにルシフェルは肩を落として大きな溜め息をついた。頼むからバアルとレヴァイアにはそんな態度とってくれるなよ……、という意味も込めて。
 道中、魔界の広大な街の脇を通った際にカインはまず横目に見えてしまった賑やかな街へ先に行きたがったが魔王様への挨拶が最優先だと言い聞かせてルシフェルは目的地へと真っ直ぐ向かった。
 そんなこんなでバアルの城へ到着。
「……どうでもいいけどメルヘンチックな城だな、こりゃ……」
 カインはバアルの城を目の前にしてちょっと呆然としてみせた。
「まるでお菓子で出来てそうな可愛いお城でしょ? でもちゃんとこの世界を仕切ってる魔王様が住んでるのよ」
 ルシフェルは思わずプッと吹き出した。魔王の城と聞いて恐らくカインはもっと禍々しいものを想像していたに違いない。しかし実際はこの通り。このお城、来る途中に遠目にもずっと見えていたはずだがカインはただのオブジェか何かだと解釈していたようだ。まさかまさか魔王が住んでいるどころか人が住んでいるとすら思わなかったらしい。
 そう、魔王バアルはその冷徹なイメージからは想像出来ないような少し可愛い趣味をしている。それゆえに彼の城はまるで子供の絵本にそのまま出てきそうな可愛いデザインなのだ。カインが巨大なオブジェと勘違いするのも無理はない。



 一方その可愛らしい城の主はルシフェルがやって来たことに気付いて舞い上がっていた。
「おい、バアル。ル〜のヤツがなんか連れてこっち来るよ〜」
 窓から身を乗り出し、光に透けるような銀色の髪をサラサラと風に遊ばせながら外を眺めていたレヴァイアがこの興奮をどうしてくれようかと言ったふうに窓枠を掴んでその場をピョンピョン飛び跳ねる。
 それなりに高い背ととんがり耳に銀髪の少し襟足の伸びたショートヘアー。大きめのパッチリした瞳が特徴の悪魔としてはなんの変哲もない青年。しかし彼、レヴァイアはその平凡な見た目とは裏腹に『破壊神』と恐れられ巨大な力を誇り魔界を担う三大魔王の一人である。
「あらま。一体どんなお土産を持ってきているんですか?」
 はしゃぐレヴァイアに丁重でおっとりした男とも女ともつかぬ声でバアルは答えた。彼もまたレヴァイアと同じく魔界を支えている三大魔王の一人である。
 腰まであろうかという長い銀髪と女性と見紛うような端整な顔立ち。そこまではまだ悪魔としてなんの変哲もない青年だが、しかしバアルはレヴァイアと違ってその顔に黒と紫を基調とした濃い化粧を施して表情を殺し、王としての威厳をしっかりと醸し出している。そしてこれは数多いる悪魔の中でも彼だけの特徴、悪魔なら誰もが背中に羽を持っているのだが……、彼だけは生まれながらの奇形で背中ではなく本来なら耳のあるべき場所に小さな羽が生えている。本人は昔からこの羽を愛着込めて『耳のフサフサ』と呼ぶ。由来はフサフサしていて触り心地が良いという単純なものだ。
「レヴァイア? どうしました?」
 何故だか黙ってしまったレヴァイアにもう一度問いかける。
 しかし彼のことだ、どうせ焦らして悪戯にこっちの期待を膨らませようという魂胆に違いない。相方のことを熟知していたバアルは「結局、大したものじゃないんでしょ?」と、頬杖をつきながら冷めた感じでレヴァイアを見やった。
「いや……。な、なんかね、なんかね〜……。白髪頭の男を連れてる」
「……白髪? なんだって、あの子ったらいつからそんなオヤジ趣味に!?」
 まさか本当にレヴァイアが意外な光景を目にしてフリーズしていたとは。思わずバアルもレヴァイアと同じく窓から身を乗り出してその白髪頭の男とやらを見ようとした。が、もうルシフェルと白髪頭の男は城の入り口に着いてしまったようで、残念ながら死角に入ったその姿は見えなかった。
 ルシフェルが今日、牢獄見学に一人で行くことは知っていた。何故ならば彼女に地図を手書きしてまで牢獄への道のりを教えたのは他ならぬバアル本人である。しかし彼女がなんの相談もなしに白髪頭の男を土産に持って帰ってくるとは……。
「チッ、見たかったな」
 バアルが舌打ちすると同時に部屋のドアが開いた。
 誰が開けたのかは見るまでもない。
「オ〜ッス。ちょっと面白い拾い物したんで見せようと思ってさ」
 勢いよくドアを開け、ルシフェルは二人の魔王を見やった。後ろで「俺は拾い物かよ」とカインが不服そうに目を丸くしたのがなんとなく分かったが、あえて無視。
「いらっしゃい、ルシフェル。随分と大きな拾い物をしましたね」
 いつもながら朗らかな笑みを讃えるバアル。その横ではレヴァイアが「なんだお前は何者だ」と言いたげに口をポカンと開けてカインを凝視している。
「そうなんだよ。大きいから持って来るの大変だったあ」
 ルシフェルには横目にも先程まで余裕の表情だったカインが少なからず緊張している感が伝わってきた。女帝に対しては常に強気だったカインだが流石にこの二人の前では背筋が伸びたようだ。
 レヴァイアはパッと見、普通の青年である。だがその金色の目の奥には長い長い時を生きて鍛錬された人格が滲み出ている。そしてバアルは静かな笑みを浮かべた女性的な顔立ちが相当の威圧感を放っているのだ。迷うことなく引かれた太いアイライン、厚く塗られた紫のラメ入りアイシャドウ、それらに彩られた長い睫毛の下の金色の瞳はまるで相手の奥底までを覗き込むような鋭利な光を湛えている。
 ルシフェルには分からない話だが、彼らと目を合わせれば誰しも緊張で強張るという。当の魔王二人はそのことを嫌がっているのだが……。
「あ、ども……。カインって言います。よろしく……」
「カインというと、何千年も牢獄に投獄されている人間の話を聞いたことがありますが、貴方がその?」
 カインのたどたどしい挨拶を聞いてまず反応したのはバアルだった。流石、博学なだけあって名前を聞いただけでピンときたようだ。
「ええ、まあ……。そうです……。つい先程、牢獄から出てた、きました……」
「そうですか。貴方が。あ、申し遅れました。私はバアル。この魔界を統治している王の一人です。どうぞよろしく」
「こちらこそ……」
 慣れない敬語を必死に使いながら挨拶するカインの心情をバアルは察したらしく、何を強張ることもないとばかりに優しい笑顔を向けた。
 しかし、そんなバアルの気遣いも隣の男が見事、台無しにした。
「あ〜! あの何千年も拷問されてたっつー人間か! 俺も聞いたことあるある! カインってお前か〜! 人間じゃもうとっくに老衰して死んでる歳だもんな〜。だから身体ガリガリだし白髪頭なんだね! そうか成る程なー」
 そう、レヴァイアがいつもの余計な一言を混ぜた挨拶をしてしまったのだ。
 笑いながら彼が全てにおいて正直な発言をしてしまったことにルシフェルは思わず固まった。
 ババババッ馬鹿! と、バアルも目で合図したが、レヴァイアには通じなかった。というか、気付いていないと言った方が正しいかもしれない。
「あ〜、俺はレヴァイア。よろしくな、お爺ちゃん!」
 馬鹿〜! 馬鹿〜! とバアルが隣でずっと訴えているのに、やはり彼には通じなかった。
 ルシフェルは恐る恐るカインの表情をうかがった。何せ気性の激しそうな男だ。お爺ちゃん呼ばわりされて大丈夫だろうか。憤慨していないだろうか。
(……あぁ、良かった。怒ってないみたいだ。意外と寛大〜……ん!?)
 静かな表情とは裏腹に彼が拳をきつく握り締めているのを見てルシフェルは胸の奥にヒヤリとしたものを感じた。
 頼むからケンカだけはやめてくれ。レヴァイアは普段アホだがいざ怒ると凄いことになる。カインは元は人間だけあって力に難がありそうだ。レヴァイア相手では折角の拾い物である彼が殺されかねない。
 バアルも同じことを考えていたらしく静かに慌てているようだ。目が挙動不審な動きをしている。
「いえ、こちらこそ……。ど〜も、よろしくな……」
 カインが引き攣った笑顔で挨拶を返し、握手を求めて手を差し出した。
「仲良くやろうぜ〜!」
 レヴァイアは笑顔で答えてカインの手を握った……その瞬間、ゴキッ!! っと、骨の砕けるような音が盛大に響いた。
 バアルとルシフェルは一体何が起こったのか分からなかった。だが、「いでででででで〜〜〜っ!」というレヴァイアの叫び声と握られた手をバタバタさせ振り解こうとする動きを見てすぐに状況を察した。
 痛い痛いと喚いてレヴァイアは必死に手を振り動かす。しかしカインはその手を離そうとしない。ギュッと力を込め続けニヤニヤと笑っている。
「そんな馬鹿な」とルシフェルはポカンと口を開けたまま硬直した。
 仮にも魔王の手の骨を砕くなんて普通の人間には間違っても出来ることではない。
 コイツ、こんなに馬鹿力なのか……。一同はカインの意外な力に驚いた。まず一番驚いたのはレヴァイアであろう。彼は完全にカインを舐めてかかっていた、そしてこんなデカいしっぺ返しを食らったわけであって……。
「……ヤバイ……」
 状況を飲み込んだバアルとルシフェルは青褪めながら顔を見合わせた。
「いでで〜よ! お前なにしやがる!!」
 レヴァイアは、恐らく武人として反射的にそうしたのだろう、もう片方の拳でカインに殴りかかった。とにかく手を振り払いたかったようだ。が、その拳はカインのもう一方の手の平に見事受け止められ、右手同様にゴキッ!! と、粉砕されてしまった。
「ぎゃあああああ〜〜〜〜っ!!」
 致命的なカウンターを食らって涙を大量に流しながら叫びまくる彼にバアルはやれやれと首を横に振った。
「なあ〜、レヴァイア君……。俺より遥かにアンタのが年上だ。お爺ちゃんなんて呼び方はやめてもらおうか。それと、二度と俺に白髪頭なんて言うんじゃねえ。結構気にしてるんでねぇ……。分かってくれるかな〜?」
 静かに微笑みながらカインはレヴァイアにゆっくりと語りかけた。優しげな口調、しかし手には相変わらず力が込められている。
「はぅっ、はぅぅぅ〜〜〜っ!」
 どうやら痛さのせいでレヴァイアは上手く喋れないらしい。
「レヴァちゃん。どうなのかな〜。分かったって言ったら手ぇ放してあげるんだけどなあ〜?」
「わ……分かりました。ごめんなしゃい、ごめんなしゃい……。もう言いません……」
 早口な泣き声でレヴァイアが答えるとカインはニヤリと微笑みながらゆっくりと手を放した。
 途端、骨が折れてプランプランになった手を見つめながらレヴァイアはシクシクと肩を震わせて泣き始めた。実に、情けない。とはいえ魔王の回復能力は目を見張るものがある、しばらくすれば治るだろう。大丈夫。心配は要らない。
「じゃ、挨拶はこんなカンジでいいのかな? 今後ともよろしく〜」
 輝く笑顔でカインは淡々と言い放ち、ルシフェルに目で「早く帰ろうよ」と催促した。
「そ……そうだね。詳しい話とかはまた後日にしようか。カイン疲れてるでしょ? じゃ……アタシの家、行こっか」
 ルシフェルはギクシャクしながら、とにかくこの場から早く離れようと思った。なんだかこのままレヴァイアとカインを顔合わせさせていたらまた一騒動起こりそうな気がする。

(私は……正しい人選をしたんだろうか。とにかく戦力になることは間違いない……と思う、ケド……)

 ルシフェルは一言も詫びないカインに代わってレヴァイアに謝ってからバアルに見送られて城を出た。
「アンタ、そんなヒョロイ身体でいやに馬鹿力じゃないの。なんで、どうして、どうなってんの!?」
 城から少し歩いたところでルシフェルは素直な疑問をぶつけた。
「さあ? なんでかな。生まれた時からこうだった」
「え〜!? 生まれた時から!?」
「まあな。……明日色々喋ってやるから早くお前ん家行こうぜ。なんだか足が痛ぇような気がする」
 痛みなんか感じるはずないのに、と付け足してカインは足を擦った。久しぶりに大地に足をつけて歩いたために疲れてしまったのだろう。
「分かった」と頷いてルシフェルはカインを先導するように歩き始めた。
『痛みなんか感じるはずないのに』
 さり気なく彼が溢した一言が妙に胸に引っ掛かったが、それは帰ってから聞くことにしよう。疲れている彼をあれこれ質問責めするのは忍びない。やっと牢獄から釈放された彼を早くフカフカのベッドでゆっくり休ませてやりたかった。
 フカフカのベッドに寝転べば、流石の彼もきっと「快適だ!」と喜んでくれるだろう。



 二人が城から出て行くのを見送った後、バアルは部屋に戻ってまだ泣いているレヴァイアを叱った。
「口は災いの元だと、今まで何度も教えてきたでしょう!? まったく……貴方って人は……」
「アイツ怖いよ、強いよ〜っ! 俺ヤダよ〜っ!」
「そう? いい青年じゃないですか。貴方よりも遥かに賢くて強いみたいですしね」
「そ、そんなあ〜……。ひどいよ、ひどいよ〜!」
「うるさい。いい加減に知恵というものを身に付けなさい。私は少々憤慨しているんです」
 地団駄踏んでる彼にバアルは容赦ない言葉をぶつけた。
 ――なにはともあれ、賑やかになったな。
 窓からルシフェルが楽しそうにカインと喋りながら歩いている様を見てバアルはしみじみと思った。カインなら、ルシフェルを守ってくれそうな気がすると。
 何故なら彼女は両親を失って以来、表情を失っていた。笑いもしなければ嘆きもしない、人形のような顔になってしまっていたのである。そのルシフェルが、大いに笑い、大いに嘆いてくれた。
 そう、バアルは久々にルシフェルの笑顔を見た。
 あの笑顔の理由がカインの存在ならば、こんなに心強いことはない。



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