【05:彼女の綺麗な涙】
――階段の中腹にて待てども待てどもリリスは来なかった。どうしたんだろうと心配で様子を見に行くと固く閉じた鉄の扉の前で蹲ってカインの名を呼びながら気がふれたように泣きじゃくる彼女を見つけた。……かける言葉が見つからない。でも、無事で良かったと俺は勝手に思った。あのままカインに惚れて牢獄に一緒に残っちまう可能性も覚悟していたから。本人は辛いかもしれないけど、せめて、無事で良かったと――
「で、リリッちゃんずっと部屋に篭っちゃってるんだ……?」
大丈夫かな、と付け足してレヴァイアはリリスの部屋がある方向を見やった。此処はサタンの城、彼のプライベートルーム。リリスに寝床として貸している部屋はこの左隣にある。
さて、どうしたものだろう。嫌だ帰りたくないと駄々をこねるリリスをサタンとバアルの二人で引っ張り連れて帰ってきたはいいものの、すっかり塞ぎ込んだ彼女は夕食の時間になっても部屋に篭ったきり顔を出そうとしない。どんなに声を掛けても「何も食べたくない」の一点張りである。
何も無理に食事をする必要はない、暫くそっとしておいてやろうという結論に達し今はサタン、バアル、レヴァイアの三人で部屋に集い、とりあえず一息つこうとお茶を片手にテーブルを囲んでいた。しかし三人とも口を開けば溜め息しか出ない。それだけ今回の一件は自分たちの無力さを痛感するものだった……。
神の手から人を一人、助けることも出来ない。魔王三人にとってこれ以上悔しいことはない……。
三人揃った際に改めて何か数千年待つ以外に方法はないかと話し合ったが、これといった案は一つも出ず仕舞い。とにかく悔しかった。
「俺が、自分の力をもっと上手くコントロール出来るようになったら……、そのカインてヤツを今すぐにでも解放してやれるのかな……?」
話し合いの最中、レヴァイアがどこか虚ろな目をして呟いた。何気に今回の一件において三人の中で一番ショックを受けてしまったのは彼である。本来ならサタンをも軽く凌ぐ膨大な力を内に秘めている彼は、それゆえこういう事態に遭遇すると誰よりも自分を責め苛む。強いの力を持っているからこそ責任もより強く感じてしまうのだ。
(やっぱり、牢獄内に同行させなくて正解だった……)
話を聞いただけでこの落ち込みようである。バアルは自身の判断に間違いがなかったことを確信した。もしあの場に居合わせたら、きっと彼は負の感情を爆発させてしまっただろう。
「分からないよ。レヴァ君が秘めている力は神を殺すためのもの。上手くコントロール出来たとしても呪いという執念を打ち破れるとは限らない。……もう、たられば話はやめましょうよ。キリが無い」
言うとバアルは同意を求めてサタンを見やった。
「ああ、そうだな」
正直、煮え切らないものが残っているが、サタンは頷いておいた。バアルの言うとおり延々たられば話をしていたところでどうにもならない。ただ溜め息が出るばかりである。
「と、いうわけだ! いつまでもクヨクヨすんなレヴァイア!」
サタンは唐突にレヴァイアの頭をグシャグシャと掻き回した。「わああああっ」と少しおどけた声を出して戸惑う様子からするとレヴァイアの落ち込みはそこまで重症ではなさそうだ。とりあえず一安心である。
「んでよレヴァ君。お兄ちゃんぼちぼち腹減った。なんか飯作ってくれ」
本当ならとっくに山盛りの夕飯を口に詰め込んでいる時間である。しかし今日はリリスがあの様子だからと少し遠慮していた。が、サタンのお腹の虫は正直に泣き喚く。これはもう耐えられそうにない。
「テメー、俺を慰めたのは早く飯を作って欲しかったからか……!」
「まあ、お腹が空くのはいいことですけどね」
レヴァイアとバアルが揃って冷めた目をサタンに向ける。
「だ、だってしょーがないじゃん!! 腹減っちゃったもんは減っちゃったんだもんっ!! 俺は悪くない、俺の腹が悪いッ!!」
「それはいいけど兄ちゃんトコのキッチンて汚くて使い辛いんだよな〜。で、何が食いたいのさ?」
「お前、さり気無く失礼だな。あれでもかなり綺麗にしてるぞ俺。あ、えっと、何が食いたいかか。そうだなー、えーと…………」
「特にリクエストは無いと。よし、生のジャガイモでも塩かけて噛じっとけ兄貴」
「はい、分かりまちたん。……って、ええ!? 本当に!?」
ショックですアピールとしてサタンは顔を大袈裟に崩してみせた。レヴァイアの言葉は何が本気で何が冗談かたまに分からなくなる。もし本気で生のジャガイモを渡されたら困る、とても困る。だってきっと美味しくない……。
「やだな、冗談だよ。んじゃ有り合わせのモンで何か適当に作ってくるから待ってて」
引っ掛かったなと言わんばかりに悪戯っぽく笑ってレヴァイアはその場から音もなく姿を消した。
「二人とも少しは元気が出たようで何よりです。アハハハッ」
傍らで二人の会話を聞きながらクスクスと肩を震わせていたバアルがとうとう声を上げて笑った。
「ああ、うん、まあ……。それにしても、おたくの坊ちゃん気分の浮き沈みが激しくておっかないですわ、全くっ」
「よく言いますわ、自分だってそーでしょ!」
「そんなことないわよ、おたくの坊ちゃんには負けるわっ」
何故か急にオネエ言葉でやり取りする二人。恐らくは沈んでしまった気分をなんとか盛り上げようとした結果である。だが、所詮は落ち込んでいるところを無理に上げたテンションである。間もなく二人はまた「あーあ」と溜め息をついてテーブルに突っ伏してしまった。
「なあ、バアル……」
姿勢はテーブルに突っ伏したまま、サタンは申し訳程度に顔を上げた。
「お前だったら、どうしてた?」
落ち込み屋のレヴァイアが席を外している今だからこそ口に出来た話である。
「それは、私がカインの立場だったらってこと?」
気分転換にと紅茶のおかわりを煎れていたバアルが手を止めて静かにサタンを見つめる。
「そっ。どうしてた?」
「ああ、そりゃあ同じことをしたと思いますよ。彼女が牢獄に残ったらどんな目に遭うかは明らかですもの。自分が責め苦を受ける辛さを知っているなら尚更、彼女を手元に置いておこうとは微塵も考えない」
全く迷いのない返事の仕方だった。彼の確かな意思が伺える。
「じゃあ、もし、リリスの立場だったら……?」
「そりゃまた大胆な質問ですね」
「ゴメン。でも、どうしても聞いてみたくてさ」
つまりは乙女目線でもこの出来事を見てみてくれと言ってるようなもの。男としてのプライド高い彼にこんな質問をしたら気分を害するしれない、それでも聞いてみたかった。幸いバアルは憤慨する様子もなく「そうさなー」と呟き、淡々と紅茶を飲みながら答えを考えてくれている。気難しいようで大雑把。長いこと友人をやっているがサタンは未だにバアルの怒りスイッチが何処にあるのか見当ついていない。レヴァイアに聞いても「アイツは不思議ちゃんだから俺も全然分かんない」と言う。
「まあ、私がリリスの立場だったら何がなんでも居座ったかな。相手の気持ちも省みずにね。私はその手のことになると酷く自分勝手になりがちだから。絶対、居座ったと思う」
「どんな責め苦が待っていてもか?」
「ええ、勿論。全て覚悟のうえで。私にとっては愛こそ全て、なんちゃって」
言い切ってバアルは朗らかに微笑んでみせた。
「いやいや、な、なんか妙に説得力があるよ」
一応、予想していた答えではある。なにせ彼は冷静な印象とは裏腹に実は感情が先走る男だ。基本、どんな不利益を被ろうとも自分に正直に行動してしまうのである。元は神がとことん気に掛けるほどに優秀で美しい天使だった彼がこうして共に堕天するに至ったのは良くも悪くもその基質ゆえ。しかしその神を落胆させるに至った感情先走る子供っぽい一面がなければサタンとレヴァイアは恐らく彼と友人関係を築くことなどなかっただろう。
「あれ〜? なんかサタン、その顔だと聞く前から予想ついてたっぽいですね? バアル超つまんなーい」
「なんだよその巷のギャルみたいな喋り方わ!! だってしょーがねーだろ、お前の色々を知ってりゃなんとなく予想ついちまうって」
「そっか。知られ過ぎも困りものですね。ちなみにその色々は絶対に口に出さないでね、絶対に出さないでね、絶対だぞコノヤロー」
「コノヤローとはなんだねバアルさんや。分かってる分かってる。大丈夫、流石の俺でも古傷を抉るようなこた言わないよ。でも〜……ちょっと気になってる」
「何がです?」
「そりゃ、お前『まだアイツのこと好きなのかな』とか……」
「あ、流れ星!!」
言葉を遮ってバアルが唐突に天を指差した。つられて咄嗟に「どこだ!?」とサタンは天を見上げてしまったわけだが、……此処は室内。見上げたところで石造りの天井しか見えない。それはそうだ、当たり前である。
「天井しかない!! カチンコチンの天井しかない!! 畜生、バアルの嘘つき〜!!」
「まあ、そんなことよりリリスの話をしましょうよ」
言って淡々とした表情でバアルは紅茶を啜った。話題を変えたくて仕方が無いらしい。彼にしては珍しくあまりにやり方が露骨ゆえ魂胆バレバレである。それだけ苦手な話題だったのだろう。ならばこれ以上追求するのは酷というものである。サタンは「うん、分かった」と頷く他なかった。
「えっと、リリス……、大丈夫だよな……?」
「ええ。彼女はちゃんと大人しく突き飛ばされたままその場に留まった……。私だったら死に物狂いで閉じかけの扉の間を潜って再び牢獄内に駆け込んでいたでしょう。でも彼女はそうしなかった。牢獄に留まれば貴方にもカインにも迷惑をかけると自覚していた証拠です。ならば今日は悲しんでいるけれど、すぐに元気を取り戻しますよ。貴方はその様子を静かに見守ってあげればいい。そのうち空腹にも負けてちゃっかり顔を出します。大丈夫」
確信しているかのように、バアルの言葉には迷いが僅かも無い。
「そう、かな……?」
「そうですよ。なにせ女性というのは強く出来ている。決して負けやしないはずです。だから貴方もどうか考え過ぎませぬよう」
「ああ、それは大丈夫。心配ない。…………でも、女って難しいな。こういう時になんて声かけてやればいいのか俺、全然分からない……。何を言っても裏目に出そうな気がする。なんなんだろう、普段接してるお前らが単純過ぎるのかな……」
「それはちょっと貴方、失言ですよ。全く、一番の単細胞が何を言う」
ちゃっかりツッコミを入れるバアル。しかしサタンの顔はいまいち晴れない。
「だ〜って俺とことん分かんないんだよ……。なあバアル、女って好きな男の血とかいつまでも身体に付けておきたいもんなのか?」
扉の前で泣きじゃくるリリスの身体には血がベットリと付着していた。だがサタンの心配をよそに彼女は怪我なんてしてないと首を横に振った。つまりその血は全て直前まで拷問を受けて全身血みどろだったカインに触れたことで付いたものだったわけだが、それはともかくリリスは城に帰っても身体を拭うことを頑なに拒んだ。サタンがどれだけ勧めても「気にしないでください」の一点張り。結局、彼女は血に塗れたまま部屋に篭ってしまった。
「さてね……。余程、名残り惜しく思ったんじゃないでしょうか。これを最後に数千年も会えなくなるのだから」
「そーゆーもんなの? …………もしリリスの立場だったらお前も同じことをする?」
「ああ……、するかもしれない。だって冷静になったらなんであんなことしたんだろって心底悔やんじゃうようなトンデモ奇行にも平気で走れちゃうものだよ、そういう時って」
「そっか……。そういうもんなのか……」
サタンは腕を組んで考え深げに「うーん……」と唸った。
「あれ〜? サタンて童貞でしたっけ?」
あまりにも唐突なバアルの一言だった。
「うーん……んんんんんっ!? いきなりなんて酷いこと言うんだお前ー!! 失礼にも程があるぞこの野郎!! 誰が童貞だ馬鹿野郎〜ッ!!」
「ですよね。貴方チョイチョイ女の子と遊んでたし。でも、その割にはあまりにも簡単なことばかり聞く。多少なりとも女の子と接した経験があるならもう少しはリリスの気持ちも想像つくでしょに」
「いや、それが、マジで全然……。しかも、なんでか分かんないんだけどリリスに不用意なことは言いたくないんだ。そしたら立ち直れないくらい傷つけちゃいそうな気がして……」
らしくないことを言っている自覚はあった。だが、これは隠し通せないサタンの正直な思いだった。バアルが『女は強い』と言っても、サタンには何故かリリスが硝子細工のように繊細に見えるのである。自分が下手に触れていいものではない、そう思ってしまう。
「やっだー、サッちゃんかーわいい〜!!」
サタンは真剣そのものだったのだが、バアルは非情にも肩を震わせて笑い出した。
「笑いやがった!! ひでぇ!! こちとら一生懸命に腹筋割って話したのに笑いやがったー!!」
「それを言うなら腹を割ってです。腹筋なら私だって常に割れてます。……ねえサタン、怖いってことは嫌われたくないってことですよ。貴方、今回は本気なのかもしれないね」
愛おしいものを見るようにバアルは目を細めた。本気なのかどうなのか、それに関しての自覚はまだサタンには薄い。しかし、すぐに否定の言葉が出なかったあたり、ひょっとする。
「……俺、カッコ悪い……?」
サタンの口から今日一番の大きな溜め息が出た。
「いいえ。貴方ほどの男が女の子一人に四苦八苦してる貴重な顔を見れて私は嬉しい。大丈夫、応援するよ」
「う、うん……」
なんだかこのままでは不利である。元はといえば自分から話を振ってしまったわけだが、このままでは根掘り葉掘り全てをほじくり出されそうだ。サタンはどうにかして話を変えようと考え巡らせた。
「えっと、どうでもいいけどバアル今日は口調が割と乱れがちだな?」
「あら、それは失礼。それだけ今日はちょっと参ってるってことで宜しく」
「なんたってバアルつい昨日また女の子にフラレたんだよ。だから今バアルに恋愛相談しちゃうのはちょっと酷かも〜」
いつの間に戻ってきたやら、料理のいい匂いを纏ったレヴァイアが脇から会話に加わった。
「お前、お兄ちゃんいつも言ってるけど音もなく戻ってきて背後から声かけるのやめなさい!! ビックリするだろがッ!!」
「つーか私が昨日フラレたとか言うんじゃないよクソガキ!!」
「へぇへぇ、スンマセン。とにかくお待たせ〜。軽く食えりゃいいだろ?」
二人にブーブー文句を言われても全く反省の色なく取皿やフォークとスプーンを並べるあたり図太いんだか抜けてるんだかなレヴァイアである。彼の持ってきた特大の大皿の上には彼オリジナルのレシピで作ったと思われる五種類ほどのパスタが山になっていた。どう見ても軽く食べる量ではない。が、サタンもバアルもそこにツッコミを入れることはなかった。なに、彼が大量に料理を作るのはいつものことだからである。
「バアル、またフラレたのか……」
パスタを取り分けながらサタンがボソリ呟く。
「違うよフラレてないよだって元から付き合ってなんかいないもん私はただの遊びのつもりだったんだから別にいいんだもん」
お酒を用意しながらバアルがボソボソと小声で反論をする。が、横でレヴァイアが納得行かない顔で「あれ〜?」と首を傾げた。
「変だなあ。二週間未満で終わったっていう交際最短記録更新しぃの、またいつも通り『貴方は別に私なんて必要じゃないみたいだから』って別れ文句を食らったって昨日ムチャクチャ嘆いてたじゃん。割と可愛い子だったからちょっと残念〜って」
「うるさい黙れ、それ以上言うとこのフォークで脳ミソほじくってやる」
「ひぃ!! ごめんなさいっ!!」
「はいはいはい。キミたち喧嘩はやめなさい。さーて、いただきまーす。……おお!! 超うめーコレ!!」
三人揃っての賑やかな食事。しかし三人が三人とも口には出さないが物足りなさを感じていた。いつもみたいにコレ何ですか、どんな味がするんですかと好奇心旺盛に料理を突っつくリリスの姿が無い。まだ出会って日は浅いが、すっかり彼女が輪に溶け込んでいたことをこんな形で知る……。
結局この日、リリスは部屋に篭ったきり姿を見せなかった。
「じゃ、俺たちは帰るけどさ。なんかあったらスグに相談に来てよ?」
「貴方も今日はゆっくり休んでくださいね。ではまた明日」
「ああ、大丈夫、大丈夫! 俺のことは心配要らねーよ。じゃ、またな!」
一応日付が変わるまでリリスが出てこないかと待っていた三人だが、今日はもう気配がないと判断して解散することに決め、簡単な別れの挨拶を交わしてバアルとレヴァイアはサタンの城を後にした。
「バアル、俺ちょっと今日は歩きたい気分。先に帰っててもいいよ」
少し歩みを進めたところでレヴァイアは煙草を咥え、マッチを擦った。サタンの城とバアルの城とは地味に距離がある、ゆえに普段ならちゃっちゃと飛んで帰ってしまうのだが……。今日はいつもみたいにすぐに帰っても気持良く寝れる気がしない。
「いいえ、お供します。……ひょっとして邪魔ですか?」
「や、とんでもないッス。じゃ、ちょっと歩こ」
フーッと紫煙を吐き、レヴァイアは少し俯きがちに歩き出した。
魔界の夜は寒い。冷たい風が頬に当たる。脇に目をやると立派に栄えた自分たちの街が見えた。何も無い荒地からこれだけの文化を築き上げたことは悪魔たちの大きな自信となっている。
文句一つ言わずについて来てくれた彼らのためにも、先頭に立つ自分たちはしっかりしなければならない。
「やっぱりまだ落ち込んでる?」
バアルが聞くと、一呼吸置いてから「うん」とレヴァイアは頷いて答えた。
「兄ちゃんのことも心配だし、それに、ずっとリリッちゃん泣いちゃってるのかなって思うと、さ。ちょっとね。俺どーもダメなんだよ、女の子の泣いてる姿って……」
「色々と思い出しちゃう?」
「それ聞いちゃいますかバアルさん。勘弁してくれよ」
レヴァイアの口から苦笑いが漏れた。何もかも知っててそりゃないぜの意味である。確信犯だったのだろう「失礼しました」と言いつつバアルは意地悪く笑う。
「かくいう私は、少し思い出してしまったよ。あんなに綺麗な涙は私の思い出にないけれどね」
「そうか? 俺の思い出の中にはあるけどな」
「それは誰の話?」
「多分、お前が思ってるのと同じ人の話だよ。お前には汚く見えても俺には綺麗に見えてた」
「アレでですか?」
「そう、アレでもね」
これは二人の間でしか通じない話であった。お互いに具体的な物言いを避けているのはそれがお互いにとって容易に触れるべきではない、ちょっとしたわけありの思い出だからである。
「さーて、嫌な思い出話はもう置いといて。……帰ったらさ、少し飲み直さない?」
人懐っこく言ってバアルは少し猫背気味になって歩いていたレヴァイアの肩を抱いた。
「ああ、いいね。飲もっか。大賛成」
あんなことこんなことはお酒で流して誤魔化す、この二人の得意技である。
「あ、そうだ。ところでバアルさあ、もう少しその秘密主義な性格直せば今よりもーちょっとは女の子と長続き出来る気がするんだけど、どうよ?」
「ぁあん!? いいの、放っておいてください。人に言えない秘密あり過ぎな私はとっくに結婚だのなんだの、その手の類は諦めてますから。とはいえ何もかも明かしてもいいくらい器のデッカい女の子が現れたら話は別ですけどね」
「だーからその値踏みしてやる的な超上から目線がダメなんだってばー。ホント、プライドばっか高いんだから」
「うるさい黙れくたばれ死ね。自分なんてカス程のプライドも無ければ別に秘密主義でもないクセに人のこと言えないくらい女の子と付き合い続かないじゃないですか。この根っからダメ男め」
「ワハハハッ!! 言われちゃったー。でも別にいいんだもん、俺も誰かさんと一緒でその手の類は諦めちゃってるからさー」
軽快な笑い声を取り戻し、二人は仲睦まじく肩を抱き合いながら帰路を辿った。
ちなみに諦めていると口では言うものの、まさか本当にこの先、数千年経っても自分たちが独身貴族でいるという未来を今の二人はもちろん知る由なかった。
一方その頃サタンはどうしたものかと一人、頭を掻き毟っていた。だが、やはり考えに考え直したところで打開策は何も浮かばない。
リリスはまだ起きているのだろうか。遠慮がちに部屋のドアをノックすると辛うじて聞き取れる程度の「はい、なんですか」という小さく元気のない声が返ってきた。
「あ、俺だけど……。えっと、今日はもう遅いからさ、ちゃんと寝なよ? 俺ももう寝ちゃうけどさ、でももし腹が減ったりとかなんかあったら遠慮無く起こしてくれていいからな?」
「……はい、分かりました。あの……サタンさん、なんだか凄い心配かけちゃって、すいません……」
「いいよ、気にすんな。そんじゃ、おやすみリリス」
「はい……。おやすみなさい」
凄まじく覇気が無いが……とりあえず、返事が出来るだけ良しとしよう。サタンは前向きに解釈して自室に戻り、ベッドに寝転んだ。
だが、眠れなかった。今日はやけに静かな夜だ。そんな夜に一人になると後悔ばかりが頭を過ぎる。何もかも夢見がちな自分が引き起こしてしまった悲劇ではないのかと。そもそも自分が神への反逆に失敗さえしていなければカインやリリスはこんな歪んだ世界に生を受けずに済んだはず――。
「後悔するくらいなら最初からやるなって話だよな……」
無機質な天井を見上げ、一人呟く。
――力が、欲しい――
強く願いながらサタンは固く目を閉じた。とても気持よく眠れそうにはない夜である。しかし何が起こるか分からない明日は嫌でもやって来る。意地でも目を閉じるしかなかった。何もかも自分が引き起こしてしまったという自覚があるだけ、幸いだ。しっかりしなければならないと無理にも気を引き締めることが出来る。
「で、まだリリスは出てこないんですか?」
サタンの城に来るなりバアルは首を傾げた。
あれから3日経った。それでも相変わらずリリスは部屋に篭ったきりである。ろくに食事も取っていない。
「そうなんだよ……。どんだけ言っても飯食ってくんないし……。嗚呼、実は俺の作る飯がスゲー苦手だったってオチならまだいいなって感じ……」
言ってサタンはベッドに突っ伏した。心配し過ぎで彼も彼で相当参ってしまっている。あまり褒められた状況ではない。
「兄ちゃんの料理は具の切り方がデカいし盛り方も汚いし味付け濃いからなあ」
「うん……。だからホントは女の子の口には合ってなかったのかも……」
レヴァイアの冗談も真っ向から受け止めてしまった……、これは重症だ。
参ったな……。心の中で呟いてバアルとレヴァイアは顔を見合わせた。事態は何も好転していない。あれから心配して毎日のように城に顔を出している二人である。これはもう黙って見ているわけにはいかなかった。
「流石に3日間も飲まず食わずはマズイよなあ……。よし、バアル任せた」
「了解しましたー」
レヴァイアの目配せを受けてバアルがビシッと親指を立てる。
「サタン、私ちょっとリリスの部屋に乗り込んできます。同じロン毛同士なら話せることもあるでしょう」
「ええ!? 行くの!? 大丈夫!? つーか髪の長さって関係あんの!? 俺が話聞いてもらえないのは髪の毛が短かったせい!?」
そんなバカな。弾かれたようにベッドから飛び起き、目をシパシパ瞬きさせてサタンは得意げに髪を掻き上げるバアルを凝視した。
「ま、細かいことは気にしない。とにかく引いてダメなら押してみろってね。私に任せてみてくださいよ」
言うが早いかバアルは手土産として持ってきたバスケットケースを両手に抱え、ちゃちゃと部屋を出ていってしまった。
「………………あれで相当リリっちゃんのこと気にかけてたんだよアイツ。だからマジでちょっと任せてみて。ほらアイツ自身ちょっと色々あったじゃん? だから重なって見えたみたいなんだよね。大丈夫、きっと上手くやってくれるさ」
呆気に取られてポカンと口を開けたままのサタンの肩をレヴァイアがポンと叩く。
「え、あ、うん……」
「な、なんだよ!? しっかりしろ兄貴ー!!」
「え? あ……、うん……」
「……兄貴……」
ボーッとしたっきりまともに返事もしない。こりゃ本当に重症だなあ……と、レヴァイアは頭を掻いた。と、次の瞬間、不意にサタンは意識を取り戻した。
「あ、わりぃ!! だ、大丈夫!! 大丈夫!! よし、バアルに任せよう、うんっ!!」
「おお、帰ってきたか。良かった良かった」
「ただいま我が弟!! お兄ちゃんは帰ってきた!! さーて、待ってる間ヒマだしお茶でも入れようかな。飲むだろ?」
「うん、貰う」
レヴァイアが頷いたのを見てサタンはそそくさとお茶の用意を始めた。やり方は超大雑把。ポットにお茶っ葉と水を入れ、手の平から高熱を発して一気に蒸し上げれば簡単に熱々のお茶の出来上がり。炎を操るサタンならではの技である。
「兄ちゃん、加減ちょっと間違えてないか? なんかお茶が溶岩みたいになってない?」
異常なまでの湯気を上げてポットの中でお茶がボコボコと泡を噴き、いきり立っている。御指摘のとおり正に溶岩である。いつもはもっと上手くやれるのだが……。
「え!? あ、ちょ、そ、そうかもっ。まあいいや、軽く冷めてから飲んでくれ!」
いかん、まだ動揺している……。サタンの背中に冷や汗が流れた。
……悔しかったのだ。はっきり態度にこそ出さなかったが、正直サタンは自分が散々尻込みして近付けなかったリリスの元に平然と向かって行ったバアルが羨ましかった。何故、自分もあんな風に行動出来なかったのか。リリスを怖がって歩み寄ってやれなかった自分がどうしようもなく情けなく思えた……。
「大丈夫。とにかく大丈夫」
不意にレヴァイアの手がサタンの頭をグシャグシャと掻き回した。
「大丈夫、大丈夫って、何が……?」
サタンは溶岩噴き上げるポットを両手で持ったまま顔を上げなかった。
「怖がるのは別に情けないことじゃないよって意味。俺だってリリッちゃんに何もしてやれてないし! んで、ほら、バアルはさ、怖いもの知らずだから特別だよ。だから気にしない気にしない」
「……まあ、確かにアイツはちょっと特別だな……」
変に鋭いこの弟分は全てお見通しだったようだ。
「俺、余計なこと言った?」
これまた暗い声のトーンで察したのだろう。マズったのではないかとレヴァイアが狼狽え出す。
「いや、畜生マジで隠しことは通じねーなって思っただけ! 励まし、ありがとよ!」
言ってサタンは顔を上げてニッコリ笑うと心配ありません僕は元気ですアピールとしてレヴァイアの額にゴツンとそれなりの威力を持った頭突きを食らわせた。
「イテー!! …………ヘヘッ、伊達に長いことアンタの弟分やってないよ!」
この石頭めは一瞬怯んだだけですぐにニコニコと笑った。もっとギャーギャー喚いて欲しかったサタンとしては若干不服な結果である。
「ま、そんなわけであれこれ考え過ぎずに気楽に構えておきましょお。大丈夫、大丈夫。バアルは『その手のことで色々と苦労した』から上手くリリッちゃんの相談に乗ってやれると思うよ。自分でも『その手のことは任せとけ』って自信満々に言ってたし」
「……お前の口がそれを言いますか」
「あ、ひでぇ!!」
静かながら鋭利なサタンの反撃にレヴァイアは思い切り顔を歪めた。
「大体、人の心配ばっかしてる場合かよって。お前はお前でどーなんだって」
「あーあーあーあーーーー!! 聞こえない聞こえなーい!!」
耳をバシバシと手の平で叩きながら室内を右往左往するレヴァイア。形勢逆転、痛いところをピンポイントで突いてやれたようである。
コンコンッ――。二度、ドアをノックしたがリリスからの返事はない。
「リリス、私です。御存知、可愛い王様でーす。なんちゃって。……入ってもいいですか?」
……暫く待ったが返事はない。ここでサタンやレヴァイアなら遠慮してしまうことだろう。しかし彼らが言っていた通りバアルは基本、恐れ知らずである。返事がない、それつまり拒否の意思はないと判断して彼はドアノブに手を掛けた。全ては「やめて、来ないで」と拒否らなかったリリスの責任である。
幸い、鍵は掛かっていなかった。尤も掛かっていたとしてもバアルは身体を透かしてドアを潜るなりドアを蹴って壊すなりして強引に室内に入ってしまっただろうが。
「お邪魔しまーす。…………そんなところにいたんですか」
凡そ魔王の城内とは思えない仕上がりの、サタンが気を利かせて集めた白とピンク基調の可愛らしいインテリアに囲まれた室内。そのベッドの影にリリスの姿はあった。パッと見渡しただけでは見つからない位置である。
髪はボサボサ。身体中は乾びた血に塗れ、膝を抱えて座り込んでいるその姿は痛々しいにも程があった。よく見れば腕に数カ所、引っ掻き傷もある。自分でやってしまったのだろう。
「バアル、さん……?」
バアルの声を聞いておもむろに上げた彼女の顔もまた痛々しいものだった。明らかに窶れ、どれだけ擦り続けたのか目の周りは真っ赤に腫れ上がっている。あれだけ明朗快活だった女性が、こんな姿になってしまった。
だが、バアルは優しげな表情を変えなかった。寧ろこの程度で済んで良かったと安堵したためである。
「みんな心配してますよ。あれからご飯も食べてないんですってね?」
「……はい……。食欲、湧かなくて……」
「それは良くないね。嫌でも何か食べなくちゃ身体に毒ですよ?」
言ってバアルは近くにあったテーブルに持ってきたバスケットケースを置いてその中身を広げ始めた。
「あの、バアルさん……。それって……」
「これ? 私の自前の紅茶セットに、お手製のシフォンケーキでーす。久々にお菓子作りなんかしちゃった。まさか食べたくないとは言わせない」
優しげな表情が一変、ゾッとするほどの無表情。
「は、はいぃぃぃ……」
まさか自分がこんなに弱っているにもかかわらず脅しを受けるとは夢にも思っていなかったリリスである。参った。本当に食欲が無いのだが目の前の男には決して逆らうべきではないと本能が強く訴えている。これは、応じるしかない。
「宜しい。ではお座りになってお嬢さん」
優雅に椅子に腰掛け、向かいの椅子を手の平で指すバアル。……怖い。その笑顔が怖い。これは本格的にとにかく全く逆らうわけにはいかない。
「は、はい……。お座りにならせていただくですます……」
しどろもどろになりながらリリスは言われた通り椅子に腰掛け、目の前に置かれたシフォンケーキと紅茶を用意するバアルの慣れた手付きを見つめた。
「……それだけ元気に返事が出来れば結構。本当に心配しました」
「あ……。ごめんなさい……。心配かけちゃいました、よね……。ごめんなさい……」
「謝ることはありません。私たちが好き好んで勝手に心配してしまっただけなのですから。そもそも悪いのは全て神だしね! ですから、貴女は謝ることありませんよ」
「バ、バアルさん……。とことん神様がお嫌いなんですね……」
悪いのは全て神、そう言った瞬間に彼は狂気に取り憑かれたような物凄い表情をした。一体、神と彼との間には何があったのだろう。とても気になるが下手に聞いて良いものではなさそうだ……。リリスは好奇心を押し殺して再びバアルの手元を見つめた。
「ええ、そりゃあもう死ぬほど大嫌いです。ワハハハハッ!! って、その話は今は置いといきましょ。さあ、お茶が入りました。どうぞ」
鼻に届くいい匂い。差し出されたのは淡い湯気を立てる綺麗な装飾を施された紅茶のカップ。とてもじゃないが血やら何やらに汚れた手で触る気はしない。
リリスは咄嗟にバアルが用意して傍らに置いておいた濡れ布巾で手を拭った。この手の平には大事に大事にとっておいたカインの血がついていた、ゆえにもう一生拭うまいと思っていたはずなのだが……、不思議なものである。まあ、手の平のを拭ったところでまだ腕とか足とかにも血は残っている。問題ない。
「えっと、では改めて……、いただきます」
フーッと一息かけてからリリスは紅茶を静かに口にした。久々に口にした飲み物である。……これは、なんというお茶だろう。冷ます必要などない飲み易い温度、味は仄かに甘い。
(……美味しい……)
そしてリリスは無意識にケーキの方へと目を向けていた。食欲なんかなかったはずなのにである。何もかも無意識だった。おもむろにフォークを手に取り、ケーキを一口分切り取って口へと運ぶ。ゆっくりと噛み締めたそれは、ふわりと甘く柔らかかった。
(……美味、しい……!)
しかし本当は『美味しい』だけではなく、甘く、優しく、温かく、初めて食べたはずのものなのに何故か懐かしかった。それらを合わせてなんと表現したらいいのか……。もしリリスが神ではなく正規の手順を踏んで母という存在から生まれ、育てられた者であったなら迷わず『お母さんの味』と表現していただろう。だが、リリスはその言葉を知らなかった。それでも、これが余程の想いを込めなければ作れない味であることは確かに感じた。
何か、ずっと張り詰めていたものが取れてしまった気がする……。
「っ……、つ…………!」
リリスの目から大粒の涙が零れ落ちた。何故泣いてしまったのかは分からない。上手な感想も言えない。とにかく、何か張り詰めていたものが取れてしまった……。
リリスは涙を流しながらただただ夢中でケーキを頬張った。バアルが言葉ではなく紅茶とケーキに想いを託したように、リリスも態度で想いを伝えた。
通じたのだろう、リリスを見るバアルの目はとても優しい色に染まっている。
「……美味しかった?」
食べ終えるタイミングを待ってバアルが聞くとリリスは目を擦りながら何度も何度も大きく頷いた。
「リリス、貴女は牢獄に一人残った彼を将来迎えに行くために数千年先まで生きると決めたんでしょう? なら、生きるために必要なことはちゃんとやらないと。落ち込むのもいい、部屋に篭って一人で考え込むのもいい、好きなようにしていい。でも、どんな時も怠ってはいけないことがある。分かるよね?」
優しく諭すような口調。おっしゃる通りですとばかりにリリスはまた大きく頷いた。
「み、3日間……、ずっとあの人がくれた言葉を頭の中で繰り返してたんです……。わ、忘れないように……、寂しくないようにって……。なにの、思い出せば思い出すだけ寂しくなっちゃって……! どうしたらいいか分かんなくなっちゃって……、気付いたらそのまま動けなくなっちゃった……! こんなに塞ぎ込んだってなんにも意味ないって分かってたのに……!」
たった一人で溜めに溜めていた弱音がせきを切ったように溢れ出る。気の抜けてしまった証だった。
「いっぱい泣けばスッキリするかなって思ったけど……、泣いても泣いても全然ダメだし……!」
「泣くのは正解ですよリリス。一つ、アドバイスをあげましょう。一人で泣いて解決しなかった時は誰かの胸を借りて泣いてみるといい。そうすれば大概成功します。覚えておきなさい」
「で、でも、誰の胸を借りれば……? サタンさん、こんな私の顔を見たらきっと凄く心配しちゃうと思うし……! み、見せられない、こんな顔……! 私、サタンさんに迷惑ばっかりかけてる……! もうヤダ、どうして私ってこんなに愚図なの……!」
「問題ありません。見なくても心配しています。隠れててもちゃっかり迷惑です。リリス、貴女が辛いと私たちも辛いんですよ。ならばいっそ素直に頼ってくれた方が助かります。無理に一人で抱え込もうとは思わないことです。胸くらい私たちみんな喜んで貸します」
悪戯っぽい笑みでトゲを緩和させてはいるが、バアルの物言いは相当ズバズバと突き刺さってくる。リリスは「嗚呼……」と嘆いて肩を落としてしまった。
「バアルさん、ちょっと厳しいです……」
「おっと、ごめんなさい。ちょっと私情が混じってしまったかな。どうも貴女を見ていると昔の自分を思い出してしまってね」
「昔の自分、ですか?」
「ええ。私には弱音は罪だと思い込んで何もかも自分で抱え込もうとした時期があったんです。何もかも自分で抱え込めば傷付くのは自分一人で済むと信じ込んでいた。だから周りの親切は全てありがた迷惑だと突っぱねて延々自分を責め苛んだ。……結果、反対にみんなを酷く傷付けてしまいました。わはははっ」
いや笑いことじゃないんだけどね本当は、と小声で付け足してバアルは紅茶を啜った。
「……同じ、だ……。あの、どうして、考え改めることが出来たんですか……?」
リリスが聞くとバアルは自身の手の平をまじまじと見つめた。
「ある日レヴァイアが自分の手の平にナイフを思い切り突き立てて私に言ったんです。血塗れの手を見せつけて、どうだ、お前も痛いだろって。俺が痛いとお前も痛いだろ、同じようにお前が痛いと俺も痛いんだって。……それで目が覚めたんです」
「あのレヴァさんが、そんなことを……?」
想像が出来なかった。なにせリリスにとってレヴァイアは脳天気なお兄さんというイメージしかなかったのである。
「ああ見えて彼は私よりしっかりしてるんですよ。幸い貴女は私と違って話を聞く耳をちゃんと持っていらっしゃる。私が実際に血を見せる必要はなさそうだ」
「あ、はい、それはもう! だ、だからダメですよ流血沙汰なんて!」
「いいリアクションです。なら、もう自分が何をするべきか分かっていますね?」
「……はい……」
歯切れの悪い返事。しかし頷くだけ良しとしてバアルは話を続けた。
「宜しい。ではまずその身体を拭きましょう。名残り惜しい気持ちは分かりますが色々と現実的じゃないですね。どれだけ大事にそのまま付けておいてもどうせ乾燥してポロポロ落ちちゃいますよ?」
「え? え? えっと、言われてみれば確かに……」
バアルの言うとおり、この先の一生をずっと血塗れのまま過ごすというのは現実的ではない。それに、確かにポロポロと落ちてきている。
(私、なにやってるんだろう……)
リリスはようやく自身の奇行を自覚した。
意味が、ない。落ち込んでしまったこともそう、こうして血塗れのままでいることもそう。こんなことをして一体何になるのか。彼が喜ぶはずもないのに。
「とっておくならとっておくで、この布巾に拭いてとっておいたらどう? 身体に付けておくのはオススメしませんね。血をずっとつけてるとそのうち痒くなったりもするし。これ私の経験談ね」
「そういえばなんかちょっと痒いかも……。あの、じゃあ、ふ、拭きます……」
「それがいい。どうぞ、この布巾はプレゼントしますよ」
言ってバアルはリリスが先程手を拭いた濡れ布巾を差し出した。成る程、これは敵わない。リリスの行動を全て先読みして準備を整えてきた彼の勝ちである。とても汚れた手では触る気の起きない綺麗なティーカップ、血を拭くための濡れ布巾……。それらは全て計算されたものだったのだ。
リリスはゆっくりと身体を拭った。腕、その次に脚……。背中に関しては腕が回らなかったためバアルに手伝ってもらった。
「よし。綺麗になりました。これであとお風呂に入れば完璧ですね」
「はい。こんな綺麗なお城を汚れた姿のままウロウロするわけにいきませんしね」
リリスは布巾を両手で持って物悲しく付いた鮮やかな赤をまじまじと見つめた。きっと彼は今日もあの冷たい牢獄の中で責め苛まれ、沢山の血を流していることだろう。
「……私、馬鹿みたいですよね……。ホント、何やってるんだろう……。こんな……、ただの気色悪い女ですよね……」
また涙が零れた。せっかく、彼は不幸を全て肩代わりしてくれたのに。それなのに、自分は一体何をやっているんだろう。
「いいえ。可愛らしいですよ。思い出を残しておこうとする貴女は可愛い。とっておきたいと思ったのなら、とっておきなさい。その方が無理に思い出を捨てて後悔するより余程いい」
「で、でも……私は、馬鹿だ……! 大馬鹿だ……!」
せっかく、幸せになれと言ってくれたのに……。リリスは自分の弱さが情けなくてひたすら肩を震わせ、泣いた。「馬鹿だ、馬鹿だ……」繰り返し呟いて泣き続ける。……不意に、繊細な手がリリスの頭を優しく撫で上げた。
「いいえ、リリス。そうした自覚があるなら上出来です。貴女は賢い。貴女と違って私は夢中になっていた時、自分がどれだけ滑稽なことをしているか僅かも気付けなかった。周りが何を言おうと全く耳を貸すことも出来なかった。あ、お前そもそも耳が無いだろってツッコミは野暮ですよ?」
おどけて自身の耳のフサフサを触ってみせるバアル。悲しいばかりのリリスだったが、これには思わずクスリと笑ってしまった。
「ま、そんなこんなで、ただただ必死だったんですよね。結果、私はこの世界で私が最も大切にしていた人を深く傷付けてしまった。相手のためと頑なに信じていた、その想いこそが自己満足でしかなかったのです。何もかも過ぎた後に、やっと気付いた。その時にはもう手遅れでした。何故、私は友人たちの声を聞けなかったのか、本当に悔やみましたね」
バアルは終始、微笑みを絶やさず話をしている。しかし、その瞳の奥には途方も無い悲しみが伺えた。
一体、彼は過去に何があったのだろう。とても気になるが明言を避けているあたり下手に触れていい話ではなさそうだ。リリスは喉まで出かかっていた「教えて」の言葉を飲み込んで消した。
「……聞かないのですか?」
唐突にバアルが呟いた。彼は好奇心旺盛なリリスの心をあっさり見抜いていたのである。だが、リリスは首を横に振った。
「本当に? 貴女は正直な気持ちを私に話してくれた、私もそれに応える覚悟はちゃんとしてきたつもりです」
「いいえ……。私はきっとまだバアルさんの過去を背負えるほど強くないから……。ちゃんと受け止められるくらい強くなった時に聞きたいと思います。軽く聞きたくない……。バアルさんが私の一言一句ちゃんと聞いて受け止めてくれたみたいに、私もちゃんと受け止めたいから。だから、まだ聞かない」
「…………驚いた」
思わぬ返事にあのバアルが顔を一瞬キョトンとさせた。正直なところ彼女のことはまだ生まれたばかりの子供としか思っていなかったのだ。それなのに、この返事である。素直に驚いてしまった。
「成長著しいですね、頼もしいことです。……ねえリリス、独り善がりに突っ走って馬鹿をやらかすのは私だけで充分。だから貴女はしっかりと周りを見て、しっかり見極めて、しっかり頼りなさい。貴女が私の愚かな過去を反面教師として活かしてくれたなら、己の愚行も決して無駄ではなかったと思える気がするのです」
「……はい……!」
リリスは力強く頷き、手で目元をゴシゴシと拭った。
同じ思いをして欲しくない、その一心でこんなに自分を気にかけてくれた彼の気持ちが嬉しかった。
動けない、などと甘えたことを言ってる場合ではない。ちゃんと前を向かなければならない。
「バアルさん……。誰かの、胸を、借りたら、大概成功するんですよね……?」
「ええ、そのはずです。私の経験上ではね」
「じゃあ、借りてもいいですか……?」
「私なんかの胸で良ければ喜んで差し出しますよ」
バアルが得意げにポンと胸を叩いてみせる。
縋るしか、ない。
「じゃあ、ちょっと貸してください……! そしたら私、きっと立ち直れるから……!」
言うとリリスは迷うこと無く胸に飛び込み、声を上げて泣きじゃくった。
「これだけ断言しておいて効果なかったらゴメンよ」
笑いながらもバアルの腕は優しくリリスを抱き留め、手の平は愛惜しむように髪と背中を撫でる……。まるで大丈夫、大丈夫と言い聞かせるように。
雪のように真っ白な肌とは裏腹にしっかりと温かな肌。なんだろう、この途方も無い安心感は……。一人ではない、それがこんなにも心強いものだったとは。
散々泣いて泣き疲れた後リリスは顔を上げて「効果ありました」と笑ってみせた。
ドアがコンコンとノックされた。呑気にお茶を飲んでいたサタンとレヴァイアが一斉に目を向けると、得意げな顔をしたバアルと彼の背中に隠れて少し遠慮がちにしながらリリスが部屋へと入ってきた。
「リリス……!」
サタンが声をかけるとリリスは少しバツが悪そうに、しかししっかりと微笑みを返してみせた。
「心配かけてごめんなさい。もう大丈夫です」
その言葉を言い終わるか終わらないかのタイミングでサタンは勢い良く駆け寄るとリリスを強く抱き締めて「良かった、良かった……!」と繰り返した。
「あ……。あの、本当に、心配かけてごめんなさい……」
「んーん、いいよ! 全然いい! 出てきてくれただけで嬉しいよ俺!」
喜びを隠せないサタンはこれでもかとリリスの頬に頬擦りして笑ってみせた。
あれだけ沈んでいたサタンがこれだけはしゃいでくれたのだ、バアルとレヴァイアはホッと胸を撫で下ろし、お互い顔を見合わせて「大成功だね」と頷いた。
「えっと、サタンさん! 私、お風呂に入りたいです! それと、お腹が空きました! 何か食べたいです!」
「風呂と飯か! いいよ、分かった! すぐ準備するから待ってな! おい、レヴァイア、なんか作れ!」
「了解しました兄貴! 任せとけ!」
言うとレヴァイアはビシッと親指を立ててその場から姿を消した。
「よし! じゃあバアルは風呂の準備な! 頼んだ!」
「はい了解……してたまるかハゲ。なんの権限があって私にそんな雑用を頼めるんだか? 手から火を出せる貴方のが風呂当番に向いてるでしょ」
「なんだよノリの悪いヤツだなー」
そこは便乗して引き受けるべきだろ、と小さく愚痴を零してサタンは頬を膨らませた。と、次の瞬間、不意に濡れたバアルの胸元が目に入った。これは、まさか……。
「あ、気付いた? ……いいだろ、羨ましいだろー」
サタンの視線に気付いたバアルがこれみよがしに服を引っ張ってリリスの涙で濡れた胸元を見せつける。
「お前ってヤツは……!」
感情高ぶらせてブルブルと身体を震わすサタン。その隣でリリスは何故サタンが憤っているのか理解出来ずアワアワと狼狽える。
「さーてと、レヴァ君の手伝いでもしてこよっかな!」
言うが早いかバアルはその場から姿を消してしまった。
「あーー!! 逃げた!! 逃げやがった!! 逃げた畜生ーーーー!!」
悔しさで腹の底から叫ぶサタン。が、隣でリリスがポカンと口を開けていることに気付いて彼はすぐさま我に返った。
「あ、えっと……。まあ、とりあえず座りたまえ。あ、お、お茶でも飲むかいお嬢さん?」
「え? あ、はいっ。いただきます」
お互いにしどろもどろ。一つ屋根の下に暮らしていただけに二人きりで過ごすことも珍しくなかった仲なのだが、どうしたことだろう。
「えっと、バアルとどんな話をしたんだ? あ、言いたくなかったら言わなくていいけど……」
しっちゃかめっちゃかな手際でお茶を用意しながらサタンが聞くとリリスはクスッと笑った。
「いえ、隠すようなことは何も。ちゃんとご飯食べなさいとか、一人で抱え込んじゃダメだよとか、そういう極普通のことを言われました。それで目が覚めたんです」
「そっか……。そんならいいや。ほら、アイツって言い方キツいだろ? 何回注意しても直んないんだアレ。でもさ、それアイツがちゃんと心配してる証拠だから。もしグサッときても許してやってくれ。そんだけちょっと心配だった」
「サタンさん……。大丈夫ですよ。バアルさんとても優しかったです」
バアルに対してつい先程まで一歩的にイチャモンをつけて鼻筋を立てて向かっていたというのに、いなくなった途端にこの変わり様。
(なんか、いいなあ。そういうの)
サタンらを見ていると何故か心が温まる。彼らはつまり悪口さえも平気で言い合えるほど仲が良い。この輪にもし自分も入れたとしたら、どれほど楽しいだろうか。
「あんにゃろ、女の前では流石に紳士の皮かぶりやがったのか……! 外面ばっかり気取りやがって畜生め……!」
何か、サタンはとても不服そうだが、まあいい。
――この輪に、もし自分も入れたとしたら――。
まだ漠然としているが、きっとそれはとても『幸せ』なことであるはず。
(カイン、なんだか私、前に歩いていける気がします。だって今日、新しい目標が見えたんです。だから、どうか心配しないで……)
どうかこの想いが伝わりますように。窓際に立ち、リリスは空に浮かぶ赤い月に祈った。その後ろでサタンが唐突に「あっ!!」と声を上げた。
「レヴァイア!! テメーは馬鹿か!! 久々に飯を食う女の子にそんなデッカくて分厚いステーキ焼いてくるヤツがあるかよ!!」
「えー!? 久々だからだよ!! しっかりスタミナつけなきゃ!! バアルもそうだその通りだって言ったもん!!」
「はい、言いました」
「なんで言っちゃうんだよ!?」
「だってお腹ペコペコだろうからいっぱい詰め込まないとって思って」
「お前そんな女々しい顔して発想だきゃ男らしいなオイッ!! ったく、変なとこアホなんだからー!!」
「サタン、それは失言ですよ!!」
空気を読まずにワイワイ騒ぐ男三人。
(えーと……。き、気にしない……、気にしない……)
リリスは心の中で自分に言い聞かせるように繰り返し呟いた。
余談だが、それから数千年後のこと。思いつきで城内の掃除を始めたルシフェルを手伝っていたカインが何かを発見して「あっ」と声を上げた。
「おいルーシー。これってなんだ?」
カインが今は亡きリリスのクローゼットの奥深くから見つけたそれは豪華な装飾の施された銀のジュエリーボックスだった。色のくすみ具合からして相当な年代物である。
「ちょっと!! 誰がママのクローゼット漁れって言った!! ……って、なんだそれ? なんか凄いもん出てきちゃったかも!? ママあんまりボロいもん取っとくイメージないし、なんだろ? 分かんない」
「ふーん。……開けてみていい? いい? いい?」
「アンタ、ダメって言っても絶対に開けるでしょその顔! いいわよ、アタシも気になるし」
ルシフェルが言うと好奇心旺盛なカインは至極嬉しそうに「よっしゃ!」と笑顔を浮かべて早速ジュエリーボックスを開けてみせた。
「……なんかスゲー不気味なもん出てきた〜!!」
カインが驚愕の表情でもって声を荒らげる。
「なにこれ、くっさ!!」
叫び、ルシフェルはルシフェルで顔を歪めて鼻を摘んだ。
二人の期待を背負ってジュエリーボックスから姿を現したもの、それは最早化石と言っても遜色ないほどに酷く年月を重ねて朽ちかけたボロ布一枚だった。他には何も入っていない。
予想の斜め上をいく骨董品の出現に二人は戸惑った。
「えーと……、こりゃ一体なんだ?」
「んー、こんな大袈裟な箱に入れてとっといてるくらいだからきっと大事なものなんだろうけど……臭いし汚いし、なんなのかちょっと想像つかないわね」
「とりあえず金目の物ではなさそうだな。チッ、期待したのに」
もっと綺麗なものが出てくると思ったのにガッカリ、そんなカインの反応である。
「待て待てい!! 期待しても城の財宝には手出しさせないわよ!! あっ!! アンタまさかウチの装飾品とかかっぱらって質に入れたりしてないだろね!?」
「なんだと!? お前そら人聞きが悪いにも程があるぞ!? いくら小遣いの少なさに嘆いてる俺でもそんな非道なこたしねーよ!!」
「そお〜? ホントかな〜?」
「なんだよそのお前絶対にやってるだろ的な疑いの眼!!」
「あらアタシそんな目ぇしてました? ま、いいや。掃除続けよ」
言うとルシフェルはちゃっちゃと作業に戻ってしまった。自分から振った話にもかかわらずである。
「ひっでぇなオイッ、マジでやってねっつーの!! ……あ、この箱さ、一応元の場所に戻しておくからな」
「ん、よろしく〜」
もうボロ布に対する興味は消えてしまったのだろう、ルシフェルはカインに背を向けて床を入念にモップがけしながら返事をした。実にあっさりした娘である。なにせ故人の持ち物だ、気にしたところでこのボロ布がなんなのか知る手立てはまず無い。バアルかレヴァイアなら何か知ってるかもしれないが……。果たして聞くほどの価値はあるのか、ないのか。とりあえずまずリリスのクローゼットを漁ったことを怒られそうである。そうしたら知らなかったんです、スイマセンとしか言いようがない。実際そうだ。
(……それにしても、血……、だよな。これ……)
間違いない。ボロ布に付着したドス黒いシミをまじまじ見つめてカインは一人、頷いた。どんなに古びて色や臭いが変わっても長いこと牢獄で生きてきた彼には分かる、これは血だ。
血の付いた布をこんなになるまでとっておくとは、あまり褒められた趣味ではない。しかし、不思議と嫌な感じはしない。なんだろう、上手くは言えないが何かこの布を見ていると何故か寂しいような、けれど僅かに嬉しいような、なんとも言い難い気持ちになる……。変だ、まさか自分に縁のあるものでもないだろうに。
(リリス、これなんだよ?)
気になるが、まあいい。これは彼女の思い出だ。他人が勝手に触れていいものではない。カインは元通りジュエリーボックスを戻した。クローゼットの奥深く、誰にも見つからないようにという意図が伺える場所へ。
「テメーもこういう服の似合う女だったらもうちょっと見れただろうになあ」
不意に目についたリリスの背中と胸元がパックリ開いたドレスを引っ張り出して広げてみる。ホント、母親に似なかったのが残念でならない……。
「アンタそれアタシのことまた男顔のブスって言いたいわけー!? つーかだからママのクローゼットを漁るなー!! もおおおお、遊んでないでちゃっちゃと手伝いなさいよ〜!!」
ルシフェルが地団駄踏んで声を張り上げる。やれやれ、また癇癪が始まってしまった。
「あ〜? ったく、うるせーなー! 掃除くらい一人でやれよー!」
「しょーがないじゃん、アタシじゃ家具動かせないんだもん! あ、早速だけどこのベッド持ち上げて〜! モップが入らないの〜!」
「ったく、俺今日レヴァイアに飲み誘われてるのにさー!」
面倒だから掃除屋さんに頼めよ、なんなら便利な家事手伝いの双子ちゃんがいるだろが、と言っても両親がよく使っていた部屋だけは自分で掃除したいというルシフェルの意地である。もしも埃が積もってしまったら本当にもう両親がいないのだと思わされる、それだけは嫌だという。その思いはとても可愛いし共感出来るのだが……
(巻き込まれるのはいっつも俺!!)
カインは心の中で大いに嘆いた。しかし女帝に逆らったら逆らったで面倒である。まず間違いなくお小遣いを減らされる。そうなれば大好きなお酒も飲めない。
仕方が無い、ブーブー文句垂れながらもカインは頭に巻いたタオルをきつく締め直し、Tシャツを腕捲くりして準備を整え、言われた通りに柵に手をかけてベッドを軽々と持ち上げた。流石、怪力自慢だけある。
と、そのカインの一連の動作を見ていたルシフェルが急にうっとりと頬を赤らめた。
「うーわ、埃ハンパねー。ほら、早くモップかけちまえ。……って、なんだよお前その顔わ!?」
「あ……。だ、だって、重いもの持った時の男の二の腕の筋肉って素敵……」
「どこ見てんだエッチ!! 早くモップ!! 俺だって一応重いもん持ったら重いんだからなっ!!」
「あ……あ……、いい!! その筋の張りっぷり凄くいい!!」
「や、やめろそんな目で見るな気色悪いー!!」
途方も無い歳の差もなんのその。毎度こんなギャーギャー大騒ぎしながら大掃除を行う、なんだかんだでとっても仲良しな二人であった。サタンとリリスが今のこの二人の姿を見たらさぞかし喜んだことだろう。
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